「もうここまで来れば気持ちだけ」セ・リーグの優勝争いをひっくり返した“信じられない一夜”

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みんなの気持ちがひとつになったから

 こうなれば流れは中日のもの。延長10回、2死一、二塁のピンチを6番手・小松辰雄が踏ん張り、ゼロに抑える。

 その裏、先頭の代打・木俣達彦の三ゴロを原辰徳が弾き、無死一塁とサヨナラの走者が出た。

 ここで巨人・藤田元司監督は江川をあきらめ、リリーフエースの角三男を投入したが、流れは変わらない。

 田尾安志が手堅く送り、豊田が四球。代打・金山卓嗣は三振に倒れたものの、角から10球粘って疲れを誘う。さらにルーキー・尾上旭も「ファウルは思い切って振った」と8球粘って四球を選び、2死満塁となった。

 そして、「あそこはストレート1本」と狙いを定めた大島が、カウント0-1から角の2球目を「待ってました」とばかりに振り抜いた。

 バットの先っぽの当たりながら、大島の執念を乗せた打球は二遊間を抜け、三塁から正岡真二(木俣の代走)がサヨナラのホームイン。中日が3時間22分の熱戦を7対6で制し、マジック「12」が点灯した。

 本塁打、犠飛、サヨナラ打と3打点を挙げ、勝利のヒーローになった大島は「オレが打った? いや、ベンチがひとつになった結果がそうさせたんだ。もうここまで来れば気持ちだけ。みんなの気持ちがひとつになったから」とチーム全員の勝利を強調した。

 近藤監督も「ウチのチームは隙だらけで未完成だけど、私が選手に要求しているのは、野性的、野武士的な野球をやってほしいということ。それを選手が身に着けてきたことはうれしい。だから、守から攻勢に回ったときは強い。今日はみんなで勝った試合だ」と賛辞を惜しまなかった。

 一方、目前の勝利が幻と消え、延長戦の末、痛恨のサヨナラ負けを喫した藤田監督は「江川と角を使って負けたんだから、しょうがないだろう。4点は(ボールが)甘いところに行ってしまった。こういうケースはちょっとしたことで流れが変わるものだ。それは覚悟していた」と結果を素直に受け止めていた。

 ちなみに、この試合はフジテレビが生中継していたが、放送延長をせず、途中で打ち切ったことから、午後9時からの2時間でファンから200本を超える抗議の電話が殺到したという。

 試合終了は午後9時42分。この日一番のハイライトシーンをテレビで見られず、仕方なくラジオで聴いていたことを懐かしく思い出すファンも多いはずだ。

 巨人との天王山3連戦を2勝1敗と勝ち越した中日は、10月の残り13試合を8勝5敗と勝ち越し。残り4試合を1勝2敗1分で終えた巨人を0.5ゲーム差、勝率8厘差で上回り、シーズン最終戦の大洋戦で8年ぶりのリーグ優勝を決めた。

 8回を終えた時点では、指揮官さえ「99パーセント負け」と覚悟していた。それが一夜にして、逆転Vへのマジック点灯に変わった。

 9月28日の大逆転劇は、同年の中日の優勝を物語るとき、ファンが「あの勝利が大きかった」と真っ先に思い浮かべる“アンビリーバブルな一戦”となった。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)

デイリー新潮編集部

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