「何をやっても抑えられなかった」王者・西武をのみ込んだ“異様な一日” 優勝争いをひっくり返した怪物

スポーツ 野球

  • ブックマーク

アンビリーバブル

 5対5の8回。勝負どころとみた森監督は、先頭のブライアントにエース・渡辺久信をワンポイントでぶつける。

 渡辺は前年、ブライアントを打率.188、7奪三振。この年もこの打席まで打率.222、7奪三振に抑え、本塁打は1本も許していなかった。まさに“天敵”だった。

 たちまちカウント1-2。渡辺は自信満々で“三振ゾーン”の高め直球を投げ込んだ。

 これまでなら空振り三振に仕留めていた必殺の決め球。だが、この日のブライアントは明らかに違った。

 豪快なフルスイングの直後、快音を発した打球は右翼席上段へ。3打席連続となる決勝ソロだった。

 試合はそのまま6対5で近鉄が勝利。たった一人でチームの全6打点を叩き出し、王者・西武を沈めた来日2年目の助っ人は、「アンビリーバブル(信じられない)!」と何度も叫んだ。

 捕手として3連発を間近で見ていた伊東勤は、後年こう振り返っている。

「あの日は試合前からブライアントに『今日は絶対打たれる』って思うぐらいのオーラがあって、止められなかった。久信が(決勝ソロを)打たれたボールもいつも空振りしているところだったんですが、あれを打たれたってことは、あの日は何をやっても抑えられなかったですよ」

 その言葉どおり、ブライアントの勢いは止まらない。

 第2試合でも2対2の3回1死、高山郁夫から四球を挟んで4打数連続となる勝ち越し49号ソロ。近鉄の連勝を呼び込んだ。

 マジック「1」で迎えた10月14日のダイエー戦では、1回に先制点の呼び水となる左翼線二塁打。チームはそのまま9年ぶりのリーグ優勝を決めた。

 最終的には、近鉄、2位・オリックス、3位・西武の3チームが0.5ゲーム差の中にひしめく大接戦となった。

 一時は優勝争いから脱落しかけた近鉄を、自らのバットで頂点まで押し上げたブライアント。まさに“アンビリーバブル”な奇跡だった。

 球団史上最強の助っ人は、シーズンを振り返ってこう語っている。

「モスト・エキサイティング! 最高さ。(西武戦で)ワタナベから打った決勝アーチは一生忘れない」

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。