「マンジャロ」は売上1300億円で「国内4位」に浮上 不適切使用問題の中「適応内患者」に行き渡らない現実も抱える「糖尿病薬・肥満症薬」市場の裏側
“痩せ薬”として不適切な使用が社会問題化している糖尿病薬「マンジャロ」は、SNS上での違法な個人売買が摘発される事態にまで及んでいる。国としても実効性を伴う規制が打てない中、糖尿病薬や肥満症薬の市場自体は右肩上がりで、マンジャロの25年度の売上は1300億円で国内4位に浮上。メーカーからは「自由診療」での販売拡大を狙う思惑もにじみ出るなど、市場は盛り上がる一方だ。(前田雄樹/製薬業界専門メディア「AnswersNews」編集長)
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糖尿病治療薬「マンジャロ」の不適切な使用が社会問題化して久しい。自由診療でダイエット目的の処方が広がっており、SNSには痩身効果を強調する投稿が相次ぐ。6月にはマンジャロを無許可で販売・保管したとして男女3人が医薬品医療機器等法違反の容疑で大阪府警に摘発されるなど、個人間の売買も問題になっている。
マンジャロの有効成分であるチルゼパチドには、インスリンの分泌を促して血糖値を下げるとともに、脳の食欲中枢に働きかけたり胃の動きを鈍らせたりすることで食欲を抑える効果がある。米国の製薬大手イーライリリーが開発した。日本では糖尿病薬として2023年4月から販売されており、25年4月には同じ有効成分を転用した肥満症薬「ゼップバウンド」が発売された。
マンジャロはあくまで糖尿病薬であり、ゼップバウンドも「肥満症」という病気を治療する薬だ。いずれも美容・痩身目的での使用は「適応外」となる。肥満症は、肥満(BMI25以上)に加えて関連する健康障害を合併している状態を指し、単なる肥満とは異なる(肥満症薬の保険適用基準はさらに厳しい)。マンジャロもゼップバウンドも、美容・痩身目的で使用した場合の安全性・有効性は確認されておらず、健康被害が出ても国の救済制度の対象にならない可能性が極めて高い。
美容・痩身目的の使用の広がりを受け、厚生労働省は6月、自治体やメーカーに対して適正使用への対応を求める通知を発出。上野賢一郎厚労相は「本来の目的以外で使用した場合、思わぬ健康被害が生じる可能性がある」と呼びかけた。イーライリリーも不適切な使用は「容認できない」との立場だ。ただ、自由診療下での美容・痩身目的の使用を規制する手立てはなく、実効性は乏しい。
「適応内」の患者に行き渡らない現実も
他方、肥満症薬をめぐっては、治療を必要とする「適応内」の患者にきちんと薬が届いているか、という問題もある。
ゼップバウンドや同種の肥満症薬「ウゴービ」は、厚労省が定める「最適使用推進ガイドライン(GL)」により、保険診療で処方できる医療機関の要件が設定されている。GLは、適正使用を通じて有効性と安全性を確保するとともに、安易な処方を制限することで医療保険財政への負担を抑えることを目的に作成される。すべての医薬品について作成されるわけではなく、単価の高い新薬や対象患者の多い新薬が対象となる。
肥満症薬の場合、専門医や管理栄養士の在籍、関連学会の認定などが要件になっている。これを満たす医療機関は全国に1200程度しかなく、それ以外の施設では適応内の患者であっても保険診療で処方することはできない。国内の肥満症薬適応内患者は約600万人と推定されるが、ゼップバウンドやウゴービによる治療を受けている患者は1%以下にとどまる。
〈こうした中での各メーカーの「自由診療」における販売拡大策や、活況を呈する肥満症薬・糖尿病薬市場などについて、新潮QUEで詳報している〉


