「五つ星ホテルの従業員は残り、コンビニ店員は消える」 2040年、AIで「消える職業」と「残る職業」の分水嶺とは何か
AIによって、人間の仕事は奪われるのか。経済学の知見から見れば、技術革新で雇用全体が長期的に減少したことはなく、AI時代にも新たな仕事が生まれる可能性は高い。だが、それは「いま働いている人の仕事が守られる」という意味ではない。AIで消える仕事と残る仕事は何か。AIと労働市場の関係を研究する経済学者の宮本弘曉氏が、2040年の「仕事」と「賃金」の未来を読み解く。
(2026年9月2日に「新潮QUE」で配信した記事をもとに再構成しました)
価値の高まる仕事、なくなる仕事
AIがより進化する2040年において、AIが代替しにくい仕事や人間が担うこと自体に意味がある仕事の価値は、高まると思います。その一つは、人が対面でサービスすること自体に付加価値がある仕事だと思います。例えば、五つ星ホテルの従業員。お客さんが高い料金を払ってでも利用するのは、特別感があり、ホスピタリティを持った人間から丁寧なサービスを受けたいからです。AIによる自動化が進んでも、サービスすること自体に価値がある仕事は残っていくでしょう。また鍼灸師やマッサージ師などように人間が肉体的に細かくサポートするような仕事も、フィジカルAIやロボットではなかなか代替できないと思います。その一方で、付加価値をつけにくく定型化しやすいコンビニやスーパーの店員、電車の運転士や一般事務員、データ入力事務員などの仕事はAIで自動化され、なくなる可能性が高いと考えています。
そして技術的にはAIで代替可能だけれど、「人間にやってほしい」と思われる仕事である「ノスタルジック・ジョブ」は残り続けるでしょう。例えば裁判官や警察官など。AIが過去の判例をもとに人間を裁いたり、街の秩序を守ったりするといったことに対して、私たちはまだ納得できないと思います。また牧師や教師などのように、人間の感情や価値観に寄り添い、人間としての温かみを大事にするような仕事をAIに任せることに抵抗感は拭えないでしょう。こうした倫理的・社会的な価値観から、「やはり人間に担ってほしい」という仕事はなくならないでしょう。そして、どんな仕事を人間に残すのかを決めるのも、私たち人間であることを忘れてはいけないと思います。
賃金はどうなるのか
2040年の労働者の賃金についてはどうでしょうか。AIによって新しい仕事が生まれたり、生産性が高まることで新たな業務が必要になったりすれば、そこに労働需要が生まれ、そうした仕事に就いている人は賃金が上がる可能性があります。その一方、AIでできるような仕事でも「人間のほうが安い」という理由で人間に任せるケースも出てくるでしょう。AIにも相応のコストがかかるため、仕事によってはAIより人間を使ったほうが安いという状況が起こり得るからです。そのような仕事の賃金には下落圧力がかかってしまいます。
今のところアメリカではAIが普及し始めた2022年以降、AIの影響を受けやすいエンジニアやカスタマーサービスなどの職業と、清掃員や整備士など影響を受けにくい職業などを比較しても、AIの影響の受けやすさと賃金上昇率との間に関係性は確認されていません。その一方で、雇用にはすでに差が出ています。それはアメリカは労働市場の流動性が高く、賃金を下げて雇い続けるより、人員を削減する方向に動きやすいからです。日本では解雇が容易ではないため、人員を抱えたまま賃金を抑える方向に進む恐れがあります。しかし、それでは既存の仕組みが温存され、AIのポテンシャルを十分に生かせません。結果として、企業全体の生産性が上がらず賃金が下がり、日本は「みんなで沈んでいく」社会にもなりかねません。
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「新潮QUE」にて公開中の関連記事【AIで「仕事」はなくならない、でも「あなたの仕事」はなくなるかもしれない――2040年「奪われる職業」「残る職業」の境界線】では、AIで雇用は増えるのか減るのか、2040年に向けて人間とAIが協働するうえでの大事な3つのポイントなどについてより詳しく報じている。


