誰もが真似したがるのに、誰も真似できない 営業利益率51.9%、平均年収2000万円超 「キーエンス」が日本企業の“常識”を覆す理由
高市早苗首相は「強い経済」の実現を標榜し支持を集めているが、日本経済の「失われた30年」においても、高い営業利益率を維持して成長を続けてきた企業がある。時価総額国内12位(5月19日時点)、売上高1兆円突破、そして「粗利率8割」の商品設計――。誰もが真似したがるのに、誰も真似できないキーエンスの「稼ぐ力」の源泉に迫る。
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※本稿は「週刊新潮」2026年3月12日号に掲載された特集の一部を再構成したものです。また、年齢や肩書、年代表記等は当時のものです。
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「キーエンスをお手本にすれば、日本企業はもっと成長できる」
2月20日、施政方針演説に臨んだ高市首相は、国内外からの投資を呼び込み、世界と戦える企業の育成を目指すとした上で、
「とにかく成長のスイッチを押して、押して、押して、押して、押しまくってまいります」
と意気込んで見せた。しかし、いくら国の強力なバックアップがあろうと、トヨタや伊藤忠のような世界的企業を一から育成するのが容易ではないことは言うまでもない。世界で戦いつつ成長を続け、「稼ぐメソッド」を持つ企業はないのか――。その候補となる条件を十分に備えているのが、キーエンスという会社だ。
広報やPRに積極的な会社ではないためご存じない方もいるかもしれないが、2月27日時点の時価総額は国内16位の約16兆円。2025年3月期の決算では初めて売上高1兆円を突破し、営業利益率は実に51.9%を誇る。社員の平均年収は2000万円を超えており、日本の上場企業の中でもトップクラスだ。
そんな超優良企業を一代で築き上げたのは、滝崎武光名誉会長(80)。2024年の「フォーブス」長者番付によると、滝崎氏の保有資産額は約216億ドルで、国内3位。1位はファーストリテイリングの柳井正氏、2位はソフトバンクグループの孫正義氏である。
「粗利率8割」の商品はなぜ売れるのか
キーエンスは、FA(ファクトリー・オートメーション)と呼ばれる工場の自動化に欠かせない制御機器などを開発・販売するB2B企業だ。ビジネス書コーナーには同社に関する書籍が何冊も並び、「最強」「高付加価値」「超・生産性」といった文字が躍る。
大阪大学名誉教授でキーエンスの研究を長年続ける延岡健太郎氏は言う。
「この会社の企業構造には弱点が見当たりません。40%を超える営業利益率を25年以上にわたって達成し続けている企業は世界的にも極めて稀です」
リーマンショック時も、キーエンスは売上高こそ減らしたものの、営業利益率は41%を維持した。なぜそれが可能なのか。その核心が「粗利率8割」という商品設計の思想にある。
原価20万円のものを100万円で売る――。一見すると暴利に映るかもしれない。しかしキーエンスの営業担当者は顧客にこう説明するという。
「今、御社のこの工程には100時間かかっています。弊社のこの製品を導入すれば、それが50時間に短縮されます。人件費や稼働率を計算すれば、これだけのメリットが生まれます。ですから100万円払っても、十分なリターンが見込めます」
「ここまで論理的に顧客企業側が『儲かる』と証明されれば、顧客は『買ってあげる』ではなく『すぐに持ってきてくれ』となります」(延岡氏)
単なる「モノ(商品の機能・スペック)」ではなく「コト(体験・成果)」を売る。それがキーエンスのビジネスモデルの根幹だ。
創業者が「科学的・論理的」にこだわる原点
創業者の滝崎氏がビジネスの世界に足を踏み入れたきっかけは、意外にも、尼崎工業高校時代に体験した学生運動だったという。
〈自治会の会長もやるなど活発な活動家の一人でした。それが挫折したのは、学生運動も文科系出身の連中が多く、科学的・論理的な裏付けをしないで行動することを知ったことです。あいまいさを排除した世界に生きようと思い、実績を数字で示せる事業家をめざしたのです〉(「will」1991年8月号)
「科学的・論理的な裏付け」「あいまいさを排除」「実績を数字で」――こうした考え方は今も社内に息づいており、日本企業にありがちな「周りがやっているからウチも」といったあいまいな意思決定はキーエンスの文化にはない。
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キーエンスが「統合報告書を出さない」「働き方改革に積極的でない」理由とは何か。「30代で家が建ち、40代で墓が建つ」と揶揄される過酷な労働環境の実態は本当なのか。1分単位の行動を記録させる「外出報告書」、業績連動で最大2200万円に跳ね上がる賞与制度……。新潮QUE(キュー)では、【他社には真似できない「キーエンス」粗利益8割の商品設計の秘密】として、複数の専門家とOBたちの証言による解説記事を配信中です。


