「石井ふく子」と「山田洋次」 “90歳超え”大御所が一肌脱いだ舞台の中身

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 明治と昭和初期に歌舞伎と一線を画して始まった、二つの老舗劇団が業界の大御所を迎えて臨む公演が注目を集めている。

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“心のある芝居”

「劇団新派と劇団前進座です。新派は松竹新喜劇との合同公演を、5月9日から東京・新橋演舞場で開催予定。前進座は独自公演を5月30日から同・池袋のサンシャイン劇場で行います」

 とは全国紙文化部デスク。新派は1888年に歌舞伎を“旧派”と位置付けて一線を画し、歌舞伎とは異なる現代劇を扱う劇団としてスタートした。一方の前進座は、歌舞伎界の旧態依然たる“門閥主義”に反発した大部屋の若手俳優らが、1931年に立ち上げた。

「新派の演目は54年に初演されて以来、繰り返し再演されている『明日の幸福』という新派には珍しい喜劇。演出を担当するのは石井ふく子(99)です」

 周知の通り、石井はTBS系のドラマ「肝っ玉かあさん」「ありがとう」をはじめ、ヒットシリーズ「渡る世間は鬼ばかり」を手がけた名物プロデューサーだ。今年9月に100歳を迎える石井は、3月の記者会見に姿を見せていた。

「足をケガしているそうで、つえを突きながらの登場でしたが、出演する高島礼子(61)や久本雅美(67)らに“心のある芝居を見せていただきたい”と訴えていました」

笑い満載の新作喜劇

 片や前進座の演目は、落語の人情噺(ばなし)を基にした「お久文七恋元結(もっとい)」だ。

「脚本は映画監督の山田洋次(94)です。山田も高齢ですが“前進座には本当に楽しい喜劇を”との依頼を快諾したそうで、古典落語をベースにした笑い満載の新作喜劇を書き下ろしたとか」

 映画界の功労者かつ重鎮である山田は、渥美清(故人)が主演した「男はつらいよ」や、西田敏行と三國連太郎(ともに故人)のコンビで人気を博した「釣りバカ日誌」などのシリーズで知られる。単発では高倉健(故人)が主演の名作「幸福の黄色いハンカチ」のほか、木村拓哉(53)と倍賞千恵子(84)の主演映画「TOKYOタクシー」が昨秋に公開されたばかりだ。

あれやこれやとアドバイス

「石井と新派の関係は古くて深い。彼女の父は大正から昭和期に新派で活躍した伊志井寛で、石井が初めて演出を担当した舞台は父が主演した公演でした。そんな縁もあってか、石井は90歳を過ぎてからも1年に1本はここで舞台演出を手がけているんです」

 一方の山田は9年前にも前進座で落語「井戸の茶碗」などを題材にした「裏長屋騒動記」の脚本と監修を担当した。

「舞台は好評を博し、昨年も再演されて多くの観客を集めました。今回の担当も脚本と監修ですが、山田は時間があれば稽古場に姿を見せて、あれやこれやとアドバイスしているそうです」

人気俳優の不在

 新派は創設から138年、前進座も95年の歴史を誇る。ともに名優がそろい、公演のたびに劇場はにぎわいを見せたが、平成以降は苦戦を強いられている。

 演劇評論家が解説する。

「長年にわたって新派を支えてきた女優の水谷八重子(87)や波乃久里子(80)は無理の利かない年代ですし、歌舞伎から新派入りした喜多村緑郎(57)も6年前に女優の鈴木杏樹(56)との不倫騒動が発覚して以来、あまりパッとしません」

 苦境は前進座も同様で、

「2016年には、NHK大河ドラマ『花神』で主演するなど、劇団の大黒柱だった中村梅之助を85歳で失いました。彼の後継者的な存在だった息子の中村梅雀(70)も、父の死に先駆けて07年に前進座から去っています。観客を呼べる人気俳優の不在は慢性化しているんですよ」

 老驥(ろうき)千里を思う――。一肌脱いだ、老才二人の手腕に注目!

週刊新潮 2026年4月30日号掲載

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