「水撒き」「トンボ」は神業でした…ナゴヤ球場の名物グラウンドキーパー「永田向平さん」が永眠 実況アナが決して忘れられない“職人”との思い出
トンボ整備でも…
永田さんはグラウンド整備の道具にもこだわりが強く、土をならすT字型の「トンボ」の新品が届くと、そのまま使うことはせず、土につく部分に並ぶ鉄の歯の長さや、その反対側の斜めに削ってある部分の角度を必ず自分の手で調整されていました。
「この球場の土に、一番合ったトンボにする」ためだと教えてくれました。
一口に土のグラウンドといっても、球場によって細かさや硬さ、土の特性はまちまちです。永田さんは正にナゴヤ球場のグラウンドを知り尽くしていました。その知識が最も発揮されたのがトンボでの整備です。
プロ野球では3回と7回終了時、短い時間でベース周りやマウンドなどを、5回終了時にはグラウンドキーパーの方が出てきて、全体的にグラウンドを整備します。
永田さんは試合中、キーパーの待機所からじっとグラウンドを見つめ、打球の動きからどこをどのようにならすかを考え、整備の時間になるとその場所へ直行していました。
イレギュラーバウンドとまではいかなくても、微妙にバウンドがおかしいと思ったところをならすのですが、そのような場所が複数あった場合は他のキーパーの方に「お前はあそこを」と指示し、整備に時間がかかって試合進行の妨げとならないよう気を遣っていました。
試合前に雨が降っている場合は、内野全面を覆う大きなビニールシートを敷いて試合に備えますが、いざ開催が決まるとそのシートをはがさなければなりません。ただ単にシートをはがすのではなく、土の部分にシートの上にたまった雨水がかからないように手順を踏まなければなりません。さらに雨水がたまっているためその重みも増しています。
バイトも含めキーパー総出で、永田さんの指示で手際よくビニールシートが畳まれていく光景はなかなかの見ものでした。
最後はグラウンドとフェンスの境目に沿って掘られた側溝にビニールシートにたまっていた雨水がザーッと流れていくのです。
雨といえばもう一つ思い出深いのが雨の中での試合です。
例によって、グラウンドを見つめる永田さんはどこがぬかるんでいるかを細かくチェックし、現場を確認する前に「土をこれだけ用意しろ」とその量を指示して、あっという間に整備を行っていました。
ナゴヤ球場は1、2塁間、ちょうどセカンドが守備に立つ周辺に雨がたまりやすい特徴があり、一番気を遣うと教えてもらったことがあります。試合が終わった後は翌日の試合に支障がないように納得いくまでグラウンドを整備する姿がありました。
実は本拠地だけでなく、春のキャンプが行われる沖縄には年明けに入り、キャンプが滞りなくできるように、また地方球場での試合がある場合は遅くともその前日までに現地に赴き整備されていました。普段アマチュアしか使用しない球場は、どうしても整備不足で土が硬かったり、その硬さも場所によってバラバラだったりするそうです。本拠地と同じようにとまではいかなくても、少しでも選手が気を遣うことなくプレーできるよう、腐心されていました。
人工芝で屋根のある球場は…
地方球場での中継の際は、永田さんにグラウンド状態を聞いて中継に生かすのが常でした。シーズンオフにはトラクターで何日もかけて土を掘り起こすなど、一年中、グラウンドを我が子のように慈しみ大切にされていました。
1997(平成9)年、本拠地が当時のナゴヤドームへ移ると、永田さんの職場もドームになりましたが、「人工芝で屋根のある球場はやることが少なくて張り合いがない」と少し寂しそうな表情でお話しされたのが印象的でした。
2002(平成14)年、2軍の本拠地となったナゴヤ球場に再び職場が移りましたが、たまにファームの取材でお目に掛かると「やっぱりドームと違ってここは整備のやり甲斐がある」と嬉しそうにおっしゃっていました。
在職中、すべての監督、コーチ、選手から「向平ちゃん」「向平さん」と慕われたのは、永田さんが選手のため思い切りプレーできるグラウンドを作るという強い情熱があったからにほかなりません。翌日投げる先発ピッチャーによって、試合後マウンドの固め方を工夫するなど目に見えないところでも選手への配慮を忘れませんでした。
ひげとトム・クルーズを思わせるサングラスがトレードマークでしたが、その風貌にしたのは照れ隠しもあったのではないかと思います。サングラスを外せば少年のようなキラキラしたつぶらな瞳で、さらに人を魅了した永田さん。
今年、ドラゴンズは2軍の新球場計画を発表し、名古屋市近郊の自治体に呼び掛けて官民一体で移転、建設に向けて動き出しています。永田さんが愛したナゴヤ球場がなくなるのは私としてはさみしい限りですが、これも一つの時代が幕を下ろすということでしょうか。
永田さん、長年お疲れ様でした。そして本当にありがとうございました。心からご冥福をお祈りいたします。
次回は審判の権威について取り上げます。また、先週配信の内容で「全30ヵ所から送られてくる試合映像」という部分は「試合をしている最多15ヵ所の球場から」、また「MLB全30球場の5分の1とはいえ、全6球場」は、「MLB最多15試合を常時4人の審判団で賄っている半分以下とはいえ」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。
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