「子の受験のために会社を辞めました…」増える“中受転職・離職” 親のキャリアも狂わせる伴走は是か非か

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親も参加させる業界の「構造」

 子供に中学受験をさせたことで、キャリアを途中で中断しなければならないケースは少なくない。なぜなのか。

 背景には、現在の中学受験の特殊な構造がある。

 かつて中学受験は経済力のある一部の家庭、あるいは生まれつき勉強の得意な子が行う限定的なものだった。スタートは5年生で、6年生からでも間に合った。

 ところが、現在は少子化によって、塾業界はできるだけ早いうちから子供を取り囲み、長く塾通いをさせることで利益を上げるビジネススタイルになった。遅くても小4、早ければ小1から塾に通わせる。

 ただし、子供の自助努力だけではそれだけ長い期間勉強をつづけることができない。そこで親を巻き込む仕組みが生まれたのだ。

 プリントの整理を親にやらせたり、大量の宿題を家庭で解かせたりすることで、「親子が共にする中受」というスタイルができ上がったのである。

 この塾業界のシステムの光と影については、様々な角度から漫画『教育虐待』で検証しているので、参考にしてほしい。

 ここで言えるのは、中学受験に巻き込まれることで、少なくない親のキャリアに影響が出ている点だ。

 先の夫婦のように転職や休職の制度をうまく利用できればいいが、そうでない親も一定数存在する。ある父親は次のように話す。

「3人の子の中受を成功させるために妻は会社を辞めました。その際に再雇用の話もあったのですが、上司も変わってしまって話はなくなりました。それで一から就活をはじめたものの、前職の条件が良かったこともあって、収入は三分の一になりました。それで家計のプランが壊れて、生活を大幅に見直さなければならなくなりました」

 都内の私立中学に通わせた場合、3年間の学費等は平均500万円ほどだ。夫婦どちらかの収入が大きく減れば、ダメージは相当なものなのだ。

非受験家庭への影響も

 また、親が巻き込まれることで、受験をしない家庭にも別の影響が出るという。

 小学生の少年野球や少年サッカーといった習い事は、親がコーチを務めることによって成り立っている。だが、子どもが小学5年生くらいになると、その親も一緒にやめてしまうため、活動が成り立たなくなるケースが相次いでいるのだ。

 都内の少年野球チームの監督は次のように話していた。

「少年野球のチームは、大体3人くらいの親が中心になって、ギリギリのところで成り立っています。もしそのうち2人が子供の中受で抜けてしまえば、チーム運営は成り立たなくなります。そのため、これからという小学5年生くらいで、チームが解散することが増えているのです。もはや、都内では受験させずに伸び伸びと育てようということ自体ができなくなりつつあります」

 中学受験が必ずしも悪いわけではない。受験に合ったタイプであれば、その挑戦には意義がある。

 ただ、中学受験ブームが過熱すればするほど、親がそれに巻き込まれ、それまで築き上げてきたキャリアを手放したり、受験をしない子供の地域活動に影響を与えたりすることも出てくる。

 問われるべきは、親を巻き込む中学受験のあり方なのか、それとも既存の働き方や地域活動のあり方なのか。議論が必要なテーマであることは疑いない。

石井光太(いしい こうた)
1977年、東京生まれ。2021年『こどもホスピスの奇跡』で新潮ドキュメント賞を受賞。主な著書に『遺体 震災、津波の果てに』『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』『教育虐待 子供を壊す「教育熱心」な親たち』など。『ぼくたちはなぜ、学校へ行くのか。マララ・ユスフザイさんの国連演説から考える』など児童書も多い。『ルポ スマホ育児が子供を壊す』(新潮社)はロングセラーとなっている。

デイリー新潮編集部

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