「日本人からしか生まれない音楽」…73歳「ギタリスト」の海外公演が満員御礼、国外で人気を呼ぶ邦楽の“共通点”とは

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日本で生まれた楽曲だからこその“湿度”

 こうした日本のミュージシャンたちは演奏技術が高いだけでなく、海外のミュージシャンとは質の異なる情緒が音ににじむ。日本人が得意とする歌心ある楽曲と演奏が、外国人リスナーの心に響いているのではないだろうか。

 高中のライヴでは前述の通り、インスト曲で大合唱が起きている。それが可能なメロディが存在しているのだ。

 上記の松原のギターで言えば、松任谷由実の「真珠のピアス」での名演が代表的だろうか。シャープで輝くような洗練されたAORテイストのリフ。そこにミュート(減音しながら弾く奏法)が効き、失恋の歌詞はさらに切なさを増す。

 山下のギターを聴いてほしい曲はたくさんあるが、よく知られた作品からあげるとすれば、竹内まりやの「駅」での演奏も印象深い。ちょっと野蛮なカッティングが気持ちいい。「駅」は、アレンジャーによっては上質な歌謡曲のようなナンバーになっただろう。しかし、山下のソウルフルなアレンジによって切なさやはかなさ、日本の黄昏の景色を感じさせ、洗練されたポップスの名曲に仕上がっている。

 日本で生まれた楽曲だからこその、こういう“湿度”が、海外のリスナーやオーディエンスには新鮮に感じられ、愛聴されているのではないだろうか。

 私見だが、山下や松原のギター、青山のドラムス、伊藤のベースは、一度聴いて、その魅力に気づくと生理的にまた聴きたくなる。中毒性を持つ。身体があの音が欲しくて欲しくてしかたがなくなるのだ。そのあたりを海外のリスナーも感じるのかもしれない。

「日本人からしか生まれない音楽だ」

 筆者は、広く世界レベルで、多くのリスナーを獲得している日本人ピアニスト、上原ひろみをデビュー以来20年以上取材している。ニューヨーク公演やボストン公演を観に行くと、その土地のファンで会場はぎっしり埋まっていた。

 上原はアメリカのメジャーレーベルと契約。海の向こうでデビューした。ほとんどの作品をアメリカでレコーディングしているので、海外進出というよりも、日本が逆輸入しているかたちになる。

 超絶技巧の演奏なので、激しいイメージが強いが、上原が演奏するバラードはとてつもなく美しい。音の一粒一粒が艶やかで、音が磨き上げられている。たとえば「Place To Be」というバラード。オリジナル録音は、浅田次郎原作の映画「オリヲン座からの招待状」(2007年)のテーマ曲としてだった。この曲はジャズ、クラシック、ときにブルース、そして童謡まで感じさせる。

 この「Place To Be」はアメリカ人でジャズ・ピアノのレジェンド、チック・コリアとデュオで演奏したヴァージョンが、アルバム「DUET」に収められている。そのチックもこの曲を大絶賛していた。筆者がどこに魅力を感じるのかを問うと、「日本人からしか生まれない作品だ」と話してくれた。

 この曲は、亡き夫の遺志を受け継ぎ小さな映画館を守り続けた妻と、彼女を支え続けた弟子のプラトニックな恋愛映画のサントラ。音楽はただただやさしい。演奏を聴きながらまぶたを閉じると、見えてくるのは四季折々の日本の風景。チックのまぶたの裏のスクリーンに映った景色もアメリカの大地ではなく、日本の輝く緑だったのかもしれない。

 ここに挙げた日本人ミュージシャンらの海外での人気は大資本の仕掛けなどと関係なく、自然発生的なものばかりだ。それゆえに余計に何だか誇らしく思ってしまうのである。

神舘和典
1962(昭和37)年東京都生まれ。雑誌および書籍編集者を経てライター。政治・経済からスポーツ、文学まで幅広いジャンルを取材し、経営者やアーティストを中心に数多くのインタビューを手がける。中でも音楽に強く、著書に『不道徳ロック講座』など。

デイリー新潮編集部

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