「銀行が欲しくてたまらない」NTTドコモは4200億円かけ悲願達成 なぜ携帯各社はネット銀行を求めるのか
5月29日、NTTドコモがネット銀行大手「住信SBIネット銀行」を買収し子会社化することが発表された。TOB(株式の公開買い付け)と、SBIホールディングスが保有する34%の株式買収にかかる総額は4200億円を見込んでいるという。NTTドコモにとって銀行買収が“悲願”だったと言われる理由とは。また、住信SBIネット銀行が手掛ける住宅ローンへの影響は――?
***
【写真を見る】最新の2025年6月の「変動金利ランキング」 ネット銀行の“お株”が奪われた状況が続く
どうしても傘下に銀行を持つ必要があったドコモ
今回の買収劇の背景にあるのは、「自社の経済圏を確立したい」という携帯キャリアの思惑があると言われている。
ドコモのライバルであるKDDIは、今年1月に三菱UFJフィナンシャル・グループと共同出資で運営してきた「auじぶん銀行」の全株式を取得し、完全子会社化した。
ソフトバンクもまた、傘下に「PayPay銀行」や「PayPay証券」、「PayPayカード」の各社があり、携帯キャリアとして銀行を持っていなかったドコモの“出遅れ”が指摘されていた。
「NTTドコモとしては、決済機能を自社内で完結させたいという動機が大きいように思います。通信事業だけでなく、モノの売買やお金のやり取りも含めて、自分たちの経済圏を作り、取り引きをその経済圏の中で完結させたいという狙いがあるのでしょう。携帯と金融はどちらもデジタルの世界を舞台に発展しており、非常に相性が良いのです」
そう解説するのは、住宅ローン比較診断サービスの「モゲチェック」を手掛ける住宅ローンアナリストの塩澤崇氏だ。住宅ローンの分野でも携帯電話をはじめ、各種サービスと同時利用することで優遇を得られる銀行が増えている。
「推測ですが、例えばドコモのd払いを未導入店舗に拡大する際、傘下に銀行を持った方がPayPayなどの他決済サービスとの差別化ポイントを作り出しやすいのだと思われます。ドコモとしてはそうした課題意識もあったはずです」(同)
SBI新生銀行に残る2300億円の公的資金
買収される側の住信SBIネット銀行にも狙いがあるのだという。
「NTTドコモの顧客基盤を活用し、預金獲得と融資拡大を狙うことができることです」(塩澤氏)
いま住宅ローンをメイン商品に据えるネット銀行では、ユーザーからの預金総額に対して、融資の総額が切迫するという、いわゆる「預貸率の悪化」が課題になっているという。
「貸したくても貸すお金がない。そうした事態にならないためにも、新たな預金の獲得がネット銀行の急務となっており、各社とも金利キャンペーンなどでテコ入れを図っています。NTTドコモの顧客基盤を使うことで、例えば“ドコモショップで住信SBIネット銀行の口座開設をすると、機種変代金が割引になる”といったサービス展開が可能になります」(同)
さらには住信SBIネット銀行をグループから手放すことになる、SBIホールディングスにもメリットが。
「1990年代後半のバブル崩壊で、銀行の多くが多額の不良債権を抱え、そうした銀行を助けるため総額1兆8000億円の公的資金が投入されました。経営破綻した日本長期信用銀行を前身とするSBI新生銀行には、今も2300億円が残っておりその返済もまた“悲願”と言われているのです」(同)
ドコモの親会社であるNTTは、住信SBIネット銀行買収の“見返り”として、SBIホールディングスの第三者割り当て増資を引き受け、約1100億円を出資する資本業務提携を結ぶ。この増資がSBI新生銀行の公的資金返済に充てられると見られている。
[1/2ページ]