【追悼・長嶋茂雄さん3】「人間長嶋」が見せた顔…「天気予報」で見せた本職顔負けの“異能”っぷりや長男誕生に際し見せた「らしからぬ姿」とは

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天気予報でも抜群の的中率

 6月3日、巨人軍終身名誉監督の長嶋茂雄氏が肺炎のため死去した。89歳だった。生涯、野球への情熱を絶やさなかった長嶋氏は、2013年5月5日に松井秀喜氏とともに国民栄誉賞を受賞。“燃える男”と呼ばれた現役時代には、いかにもミスターらしいビックリ仰天のエピソードや思わずくすりとしてしまう“いい話”が数多い。第3回は「人間長嶋編」と銘打ち、試合以外で見せた“異能”や家族思いの一面など、人間的な魅力に満ちたエピソードを紹介する。【久保田龍雄/ライター】

(全3回の第3回)

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※2023年5月5日に配信した記事を再編集してお届けします。年齢・肩書は掲載当時のものです。

 現役時代の長嶋は、天気予報にかけては、チームメイトから“気象庁”と呼ばれるほど、本職顔負けの的中ぶりだった。1968年5月12日の中日戦では、試合前にポツリと雨が落ちてきた瞬間、「今日は絶対中止になる」と予告し、いつもなら試合に備えて昼寝をするのに、この日は起きたまま、佐伯文雄総務と将棋に興じていた。

 はたして午後3時になると、雨は本格的になり、予言どおり試合は中止になった。翌13日付の日刊スポーツでは、「5月は雨が多いので、今年の梅雨は空梅雨になる」という“長嶋気象台”の長期予報も紹介されていた。

 興味を抱いた筆者が、その後の試合状況を調べたら、5月は17試合しか消化できなかったのに、6月は24試合も行われており、本職もビックリのドンピシャリ予報だった。

 1969年9月2日の大洋戦も、試合前から雨が降ったりやんだり。翌3日付の報知新聞によれば、川上哲治監督までが「やれそうですか?」と冗談まじりにお伺いを立てた。すると、長嶋は「今日は中止!」とキッパリ明言した。

 にもかかわらず、間もなく雨は上がり、予定どおり試合が開始されそうな雰囲気に、ナインは「チョーさんの勘も狂った」と思惑外れの表情になったが、試合直前に突然激しい雨が降り、一転中止に。すでにユニホームを脱いで帰り支度をしている長嶋を見た川上監督は「さすがだねえ」と感心しきりだった。

「すげえ雨が来るってさ」

 また、後楽園球場ナイター練習が行われた67年6月26日、長嶋は午後6時集合にもかかわらず、2時間以上前に姿を現した。「今日は(夕方以降)すげえ雨が来るってさ。オレは調べてきたんだから」というのが理由。確かにこの日の東京地方は「雨のち曇り一時雨」の予報だった。

 たった一人で外野をランニングしたあと、用具係を相手にフリーバッティングで汗を流した長嶋は、午後5時半、チームメイトたちが集まりはじめたときには、すでに風呂まで済ませ、「やっぱりいい汗かくには、お天道様がカンカンしているときじゃなきゃあ。それに今日雨にやられると、(前日の広島戦が雨で中止)2日練習しないことになるか」とご機嫌で引き揚げていった。

 ところが、この日の巨人ナインは午後6時半から約1時間半にわたってナイター練習を予定どおりこなしており、翌日の新聞に掲載された東京地方の天気も「晴。最高気温30.9度」。野性の勘も時には外れることがあるのか、それとも単に炎天下で汗を流したかったのか、真相は不明である。

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