選手への「詰め方は半端ではなかった」 ラグビー日本代表「快進撃」のウラにあった壮絶な戦い

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「寝て起きたら忘れる」

 エディーの“鬼詰め”ぶりは、大村氏の著書『ONE TEAMの真実』でも詳しく語られている。日本がなぜ、2015年のW杯南アフリカ戦で歴史的勝利ができたかがよく分かる1冊だ。

「心が折れそうになったことはありましたね……。でも、僕、寝て起きたら忘れますね。引きずっていてもしょうがないでしょ。どんなに大変でも、永遠じゃない。無理なら、船を降りるだけの話です。でも、やまない雨もないし、明けない夜もないですから」

 そして、2016年、ジェイミー・ジョセフの登場で、チームの方針は再び大きく変わる。

「お前らで考えて、それをこっちに上げてこい」

 エディーのもとで「全て指示された通りにやる」ことに慣れた選手たちは、180度近い方針転換に当初、戸惑った。「何、言ってんねん」という反応もあり、チームはざわついたという。

 大村氏自身も、ジェイミーの考え方や作りたいチーム像を理解するのに最初は苦労し、「バチバチ」になる時期もあった。
 
 マネジメント面だけでなく、ラグビーに対する考え方もガラリと変わる。
 
「プレイ時間の80分の中で、ボールが動いているのは40分。そのうち25分間を、自分たちでボールを持ち続けたら、相手は15分しか持てない。こちらのディフェンスする時間が減り、相手のトライも減る。これがエディーのラグビーなんですよ。わかりやすくいえば」

 しかし、ジェイミーのラグビーは違った。

「『キックを蹴れ』と言われて……価値観が全然、変わったんです。攻めてきた相手に対し、ボールを前に蹴って、後ろに下げさせる。毎回毎回、後ろ下げさせられたら、当然疲れますよね。相手が後ろに下がって動きが止まる。そうして、カオスになった瞬間に狙いにいけというラグビーです」

 ジェイミーのラグビーを体現するために、自分たちはどうすればいいのか。まず、主将と副将を核としたリーダーグループを作り、戦術と行動規範を議論した。チーム全体での意思統一が何より重要だった。

「決まったことは、チームリーダーからグループの横に広げて、理解させました。そうすれば、リーダーの価値が上がるんです。今の子は、上から命令されるよりも、そのほうが拾いやすいんです」

 2019年W杯では、日本代表が世界ランク2位のアイルランドを撃破し、スコットランドにも競り勝って史上初のベスト8進出という快挙を成し遂げた。

 エディーは「命令して徹底的に管理するタイプ」だが、ジェイミーは「自律を重んじ考えさせるタイプ」だった。

「エディーが基礎を作った後にジェイミーの自由があったからこそ、うまくいった。順番が逆なら失敗していたでしょうね」

 監督交代のたびにゼロから作り直すのではなく、前チームの良き文化を継承しつつ新たなエッセンスを加えることで、日本代表は着実に強くなっていったのだ。

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 第4回【「同じゴール設定をして、同じ方向を向く」 ラグビー“多国籍”日本代表を支えた裏方が明かすマネジメント術】では、多国籍の代表メンバーがどのようにまとまっていったかを語っている。

大村武則
1965年、京都府宇治市生まれ。城南高校でラグビーを始め、大阪体育大学ではWTBとして活躍。NZ留学後に現役を退き、1995年にヤマハ発動機のトレーナーへ転身。2009年からラグビー日本代表のチームマネージャーを務め、2011、15、19年のW杯に帯同。近著に『ONE TEAMの真実』。現在は講演活動なども行っている。

デイリー新潮編集部

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