「人生に疲れたら畑においで」 元サッカー日本代表・石川直宏さんが農家になった理由

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【全3回の第3回】

 日の丸を背負い国際舞台で戦った日本代表たち。栄えあるトップアスリートはなぜ農業を始め、なにを好き好んで新たな大地と格闘しているのか。ノンフィクション・ライターの西所正道氏が、土にまみれ、自然の営みに翻弄される3名の事情と日常と首尾に迫った。第3回では、元サッカー日本代表・石川直宏さん(44)にお話を聞いた。

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 第2回【陸上日本代表からシャインマスカット農家に転身! 木村和史さんが語った1年目の“やらかし” 「100万円近い損害が」】では、陸上4×400メートルリレーで日本代表として2017年の世界陸上選手権に出場した木村和史さんにインタビュー。苦難続きだったこれまでの歩みと、それでも「農業が楽しくて仕方ない」という理由について語ってもらった。

 元FC東京のミッドフィルダー。日本代表として、小野伸二、大久保嘉人らとアテネ五輪に出場した石川さん。そんなスター選手がいま、長野県飯綱町の自ら農場長を務める「NAO's FARM」で、サッカーのグラウンドとほぼ同等、75アールの畑でとうもろこしなどを栽培する。

「人生に疲れたら畑においでよ」

 石川さんが語る。

「例えば水上スキーの廣澤沙綾選手。彼女はアジア選手権10連覇を成し遂げた実績があって、現在も国内外で活躍して、帰国するとすぐにうちの畑に来てくれるんです。ここにいるとマインドリセットできると。昨年は月に1回は来てエネルギーをためて、また海外に戦いに行きました」

 そうした選手は他にもいて、柏レイソルの犬飼智也、元ブラインドサッカー日本代表・落合啓士など。石川さんは選手にこう言う。

「人生に疲れたら畑においでよ」

 石川さんのキャリアを振り返ると、14年ごろから大きな故障で離脱をすることが増えた。リハビリ生活を余儀なくされて心が折れそうになる自分の救いとなったのは、〈俺たちはナオを待っている〉という横断幕などファンの応援。選手とファンは互いに支え合っていることに気付かされた。

「違う環境に身を置くことで自分を見つめ直す時間になるんだと思いましたね。農業が面白いと気付いたのも、ある場所に初めて行ったときでした」

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