中居正広・反論文書の“真の目的”は? 「実は何も否定できていない」「被害女性への“威嚇”になる恐れも」元テレビ朝日法務部長が徹底分析

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「守秘義務解除」をめぐる不可解な主張

 中居氏側の文書は、第三者委の報告書に「中居氏が守秘義務解除に応じない」と書かれていたことを受けてこう主張している。

〈中居氏は当初、守秘義務解除を提案していましたが、第三者委員会から『2人の密室で何が行われたかが直接の調査対象ではない』との回答があったという経緯がありました〉

 よく読めばわかるが、この文章は「中居氏が守秘義務解除に応じなかった」という第三者委の報告書を「否定」はしていない。「中居氏が守秘義務解除に応じなかった」ことを前提に、「なぜ解除しなかったのか」という「経緯」を説明しているだけである。

 中居氏側の文章を整理すると、こう読み解けると思う。「中居氏は最初は『守秘義務を解除してもいい』と提案した。だが第三者委から『直接の調査対象は密室での出来事そのものではない』と言われて、解除する気がなくなった。だから結局、守秘義務は解除しなかった」

 中居氏が守秘義務を解除しないと決めた理由は不明だ。第三者委はフジテレビ側から依頼されていて「直接の調査対象」は会社の関わりやガバナンスだった。「密室での出来事そのもの」が直接の調査対象でないことは最初から分かっていたので、それを聞かされたことが、なぜ「守秘義務解除をやめること」につながるのかはよく分からない。

 いずれにしても、「結局、中居氏は守秘義務を解除しなかったこと」は中居氏側の文書でも否定されていないようだ。

「性暴力」認定に対する「歯切れの悪い反論」

 そしてもう1つ議論になっている点は「性暴力」。一部報道では中居氏側が今回「性暴力を否定した」という伝え方もされているが、これも中居氏側の文書をよく読むと、中居氏の主張と第三者委報告で事実関係は「矛盾」はしていないようだ。

 中居氏側はこう主張している。

〈中居氏から詳細な事情聴取を行い、関連資料を精査した結果、本件には『性暴力』という日本語から一般的に想起される暴力的または強制的な性的行為の実態は確認されませんでした〉

 これもよく読むと、中居氏は「性暴力はなかった」とは言っていない。「日本語から一般的に想起される行為はなかった」という歯切れの悪い表現を使っている。その上で第三者委が使ったWHO(世界保健機構)の「性暴力」の定義は、心理的な威圧による性的行為なども含み〈意味が広すぎる〉と批判、〈『性暴力』とは普通の日本人にとっては、肉体的強制力を行使した性的行為として、凶暴な犯罪をイメージさせる言葉です〉と主張した。

 つまり中居氏は「WHOのルールを使うこと」を批判しているが、一方で「WHOが定める『性暴力』」をしたかどうかについては特に否定していないように読めるのだ。

 なお「性暴力」についてWHOの定義を使うことに、私は問題を感じない。我が国でも文科省の資料に「望まない性的な行為は、すべて性暴力にあたります」と書かれるなど、「性暴力」の公式見解はWHOに準じているはず。「殴る蹴るなどの肉体的な力づくでなければ『性暴力』でない。だから自分がやったことは『性暴力』ではない」というのであれば、中居氏側の主張は「前時代」過ぎるのではないか。

正々堂々記者会見を開くべき

 このように見ていくと中居氏側の今回の「反論文」は、第三者委が認定した「客観的な事実関係」を否定しているのではなく、同じ事実について「考え方」の違いを述べているように思える。だがそれでも中居氏には訴えたい思いがあって、この文書をあえて公開したのだろう。

 だとしたら、中居氏は会見を開けばいいと思う。今回の文書では新たな真相は分からない。一方で「中居氏は第三者委の被害者だ」という漠然とした印象だけがSNS上に広がるなら、それは関係者への根拠のない攻撃につながるおそれがある。

 今回の文書の真意は不明だが、もし中居氏に言いたいことがあるのなら、二次被害が生じないように女性側と十分協議した上で、正々堂々と説明するしか道はないと思う。

西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)
1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。

デイリー新潮編集部

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