「ソフトバンク」悪夢の開幕ダッシュ失敗…主力離脱よりも気になる「第二の千賀」「第二の甲斐」が現れない“育成システム”への大いなる疑問

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指導力のあるコーチは少ない

 今後、ソフトバンクが1位や2位まで順位を上げ、序盤の躓きが「春の珍事」と結論づけられたとしても、それで一安心というわけにはいかないようだ。

「ソフトバンクが一時的にせよ最下位になったという事実は、重要な警告をチームにもたらしたのではないでしょうか。つまりチームの育成システムに欠陥が生じている可能性があるわけです。気になるのは2軍から4軍までの監督やコーチの“真の実力”です。今のプロ野球で最も改善が必要な点の一つとして、私はコーチの指導力を挙げます。プロ野球全体を見渡すと、コーチがOBの貢献に報いる“名誉職”と化している球団も珍しくありません。さらに1軍の選手より、2、3、4軍の選手こそ優秀なコーチが必要なのは言うまでもないでしょう。経験や技術の乏しい若手こそ高いレベルの指導が求められるからですが、若手の指導に必要な力量を持つコーチは今の日本球界にどのくらいいるのでしょうか?」(同・広澤氏)

 プロ野球の現場では「速球派のピッチャーを育てられない元速球派のコーチ」、「ホームランバッターを育てられない元ホームランバッターのコーチ」は決して珍しくないという。

「かつては一芸に秀でた名選手であっても、指導の引き出しに乏しいコーチはたくさんいます。一方、折り紙付きの名コーチと称賛されたOBは、必ず多くの選手を指導した経験を持ち、引き出しが非常に豊富なのです。私はプロ野球で真のコーチが育たない原因は指導の経験不足が原因であり、その背景としてプロとアマの指導者の間で交流が少ないことが挙げられると考えています」(同・広澤氏)

監督のオーバーワーク

 プロの世界を飛び出し、高校生や中学生、場合によっては小学生の指導に当たれば、否が応でもコーチとして成長すると広澤氏は指摘する。

「プロの選手しか知らないコーチは『なぜ言われたことができないんだ』という上から目線で終わることが多いのです。一方、アマを指導するコーチは常に選手視線で、『どうしたらやってもらえるだろう?』と真剣に考えます。私の個人的な経験で言えば、2011年にカンボジアの代表チームでコーチに就任したことが非常に勉強になりました。日本野球の常識が全く通じない選手に一から教える必要があったからです」(同・広澤氏)

 大学や実業団も含め、アマチュア選手を指導した経験はコーチの豊かな財産となる。それをプロの世界に持って帰り、若手の育成に当たる。もちろんアマの指導者がプロの世界に飛び込むのもいいだろう。こうしたプロとアマの垣根を外して指導者を育成するシステムが確立すれば、3軍や4軍も存在する価値があると広澤氏は指摘する。

 その上で広澤氏は「たとえ監督やコーチが真の指導力を持つ人々となり、非常に充実した顔ぶれになったとしても、残念ですが他にも4軍制度の問題点はあります」と言う。

「1軍と2軍の選手を見るだけでも首脳陣は大変です。ところがソフトバンクの場合、小久保裕紀監督は3軍と4軍にも最終的な責任を負っています。ケガ人が続出するという緊急事態が発生しても、ペナントレースを戦いながら、なおかつ2軍から4軍までの全選手のことを把握するというのは、やはりオーバーワークなのではないでしょうか。1軍と2軍だけのチームを優秀な首脳陣が丁寧にケアするほうが効率的かもしれません。プロ野球選手の育成に”競争原理”が役に立つのかという根源的な疑問もあります。3軍や4軍が本当に必要なのか、ファンも参加した上での広範な議論が求められていると思います」(同・広澤氏)

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 昨年12月には、育成1位で指名された高校生投手が入団を辞退したことも大きな話題となった。関連リンク【育成1位の入団辞退、上沢直之のFA獲得で「ソフトバンク」にアンチが増加? 識者が指摘するターニングポイントになった“大物選手”の獲得とは】では“アンチ”を増える理由について詳報している。

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