「韓国とは断交でもいい」 百田尚樹氏が語る「トランプ期待論」と2025年の展望

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 激動の世界情勢――とは使い古されたフレーズだが、この数年ほど激動が感じられた時期も珍しいのではないか。ロシアのウクライナ侵略、イスラエルのガザ攻撃、トランプ前大統領狙撃、韓国の戒厳令、シリア・アサド政権の崩壊などなど。国内に目を転じれば、安倍元首相の暗殺、岸田前首相の暗殺未遂、自公政権の衆院過半数割れ……。

 ベストセラー作家の百田尚樹氏にとっても今年は激動の一年だった。年初には腎臓がんで入院。夏の衆院選では党首を務める日本保守党が大方の予想を上回る得票で国会議員3名を誕生させ、国政政党にもなった。

 激動する世界と日本を百田氏はどう見ているのか。

トランプ期待論

――この1カ月ほどだけ見ても、韓国やシリアで大統領が追われる事態が起きるなど、世界的に大きな出来事が相次いでいます。百田さんの新著のタイトルではないですが、まさに「狂った世界」という感じもします。現状をどう見ていますか。

 歴史の因果関係の証明というのは極めて難しいんですが、世界がおかしくなっている理由の一つは、4年前、アメリカのトランプ大統領が敗れ、バイデン政権が誕生したことが大きいのではいかと私は見ています。

 もしもあの時、トランプさんが再選を果たしていたら、こんな狂った世界にはなっていなかったのではないか。多くの人も指摘しているように、ロシアのウクライナ侵攻はなかった可能性もあると思います。ロシアとウクライナの戦争は二国間だけの問題ではなく、結果として、かつてアメリカが悪の枢軸と呼んだ中国、イラン、北朝鮮も大きく息を吹き返しました。

 しかしトランプ政権の誕生で、ロシアとウクライナの停戦の可能性が上がるのではないかと私は見ています。そうなれば、世界は少しはマシになるのではないでしょうか。

――トランプ氏の再選についてそんなに前向きな意見を言う人は珍しいですね。

 そうですか? なんで?

――どちらかというとメディアでは悲観論をよく目にします。とんでもない外交をやってくるんじゃないかとか。ウクライナ戦争を終わらせるという“公約”にしても、単にウクライナに不利な結果をもたらすだけでは、と。

 ウクライナに関してはたしかに不利な条件で停戦や終戦を迎えるかもしれません。あのウクライナ侵攻が始まった当初から私は、ロシアに屈してはならないと言ってきました。ロシアのやっていることは許されない暴挙だというのは大前提です。

 世界では有史以来、ずっと大国の力による現状変更がまかり通ってきた。それが、第2次大戦を経てようやく世界中で「もうこりごりだ。こういうことはやめよう」となったはずなのです。

 もちろんその後も局地戦などはありましたが、今回ほど露骨にロシアという大国が力を行使して現状変更を強行することはほぼなかったといえます。

 これでもしもロシアが当初の狙い通りにウクライナ侵略を成功させて、国を奪うようなことを実現したら、そしてそれを世界が追認するような事態となれば、当然、中国なども「お、あれが認められるのか。じゃあウチも」と考えます。そうなれば世界中が危機的状況に追い込まれるのですから、多くの国がウクライナを支援したわけです。

 第2次大戦後のコンセンサスである「力による現状変更を認めない」というルールを破ることは許されない、破ってもいいことはない、というのを世界中が示す必要があった。結果、ロシアは今でもウクライナ全土を占領することはできていませんし、今後もそれは実現しないでしょう。

 ここまでのプロセスを見て中国も、簡単に「力による現状変更」はできないな、と思ったのではないでしょうか。簡単にロシアが成功してしまっていれば、台湾でやってみようとなったはずです。

 トランプ大統領が停戦を進めるのであれば、おそらくウクライナにとっては必ずしも良い条件ではない停戦、つまりある程度の国土を奪われたような格好、日本における北方領土のような形にする必要があるのかもしれません。

 本来、それは許されることではありません。当たり前のことですが、私は心からウクライナの人には同情しています。しかしあえて冷徹な見方を示すならば、世界各国はウクライナを中心に動いているわけではなく、それぞれの国益のために動いています。そして多くの国にとっては、この戦争があまりに長期化することは望ましくないのです。

 多くの死者が出た戦争でこういう表現は微妙ですが、この間のウクライナの戦いは決して無駄にはなっていません。というのはあれだけ必死の抵抗をしたからこそ、今なおウクライナは立派な独立国として存在しているのです。侵略当初は、あっという間に首都まで陥落するのではという見方もあったでしょう。そんな事態を招かなかった点においても、戦ったかいはあると思います。もちろんそのために命を落とした人のことは忘れてはいけませんが。

 さらに、もし停戦が実現すれば、北朝鮮の弱体化につながることが期待できると考えています。この間、孤立を深めたロシアが、北朝鮮との距離を縮めていったのは周知の事実です。北朝鮮は兵器をロシアに、ロシアは北朝鮮に食料や燃料を提供しました。さらには北朝鮮に兵力の提供までしてもらったことも最近報じられています。この二国の関係強化により、北朝鮮が息を吹き返したという面はあったのではないでしょうか。

 停戦により、ロシアと組んでいた北朝鮮のような国の力が低下する可能性はあります。日本にとっては、そういう時こそ拉致問題を動かす機会だと思います。

北と南は接近しない

――ただ一方で、韓国がまた北朝鮮に融和的な方向に向かうのではという懸念もありますよね。

 ユン大統領が退陣し、現在の野党が政権を取れば、親北政権が生まれるとはよくいわれています。しかし、そこはまだよく分からないと思います。というのも、金日成、金正日とは異なり、現在の金正恩政権は南北統一路線を進めようとはしていません。これは大きな政策転換です。なぜ、そうなったかといえば、皮肉なことに、文大統領時代の新北政策のせいなのです。二つの国が接近したことによって、北朝鮮には韓国の文化が大量に流入して、韓流映画が密かなブームとなったのです。もちろん大衆はこっそり見ているのです。しかしこの状況は北朝鮮政府としては、現体制への脅威となるので、韓国とは距離を置き続けたいと考えるのは当然でしょう。

 そうなるといかに韓国側が「親北」路線を取ろうとしても無駄になります。今や北朝鮮がそんなことを望んでいないからです。

 成果が出ないのであれば、その政策を進める意味は薄れますから、政権交代したとしても、単純な「親北政権」誕生とはならないんじゃないでしょうか。

 ただ確かなのは、すごい「反日政権」が生まれる、ということでしょう。

 韓国の政治家で反日を強く打ち出す人は、日本に対してはナンボうそをついてもいい、くらいに思っていますから、新しい政権が生まれれば、慰安婦や徴用工のことで、政府同士で一度取り決めたこともひっくり返す可能性は高いでしょう。

 次の大統領候補者は、「日本と断交したい」という考えの持ち主だという説もあるようですが、私としてはもし本当にそう言い出すなら大いに結構、やってみればいいじゃないかと思っています。

――断交はさすがに乱暴かと思いますが……。

 トランプ大統領に関してもう一つ申し上げておけば、中国への強硬路線を掲げている点には期待しています。

 そもそも日本の政治家には親中派が多過ぎますよ。それによって国益は損なわれています。たとえば再生エネルギーが代表例です。

 コストの高い再生エネルギーにこだわることで、電気代は上がり、国際競争力は下がっています。企業の負担が大きくなっているのです。

 その再生エネルギーに用いる太陽光パネルは中国製が多くを占めています。しかもそのパネルにはかなりウイグルで作られたものがあるという指摘すらあるんです。

 少数民族への弾圧が国際的に問題とされている地域で作ったものを無条件で購入し続けること自体、世界的には大きな問題です。が、日本国内でそれをやめろと言っている既成政党はありません。EUなどではウイグル問題を念頭に、禁輸措置なども検討しているのに、そうした動きは日本国内には無いのです。いかに親中派が多いかの証でしょう。

 しかし、こうした状況もトランプ大統領が変える可能性があります。トランプさんはあと1期ですし、年齢から考えてもやりたいこと、好きなことをやろうと考えるのではないでしょうか。そうなるとディール云々とは関係なく、訴えてきた対中政策を進めるのではと期待しています。

 もしかしたら、日本に対して、アメリカを取るのか中国を取るのかという選択を突きつけてくるかもしれません。中国製の太陽光パネルを輸入するなと言ってくる可能性すらあります。現実には内政干渉ですが、今の親中路線の日本政府には強烈なカンフル剤になるでしょう。

 ***

 賛否両論を巻き起こしがちという点は、トランプ氏と百田氏に共通する特徴とはいえる。それゆえのトランプ期待論ではないのだろうが……。

 後編(「既成政党はインチキで守られている!」 百田尚樹氏が怒る「不平等な選挙ルール」)では、「国政政党」の党首となるまでの苦労や感じた理不尽についてストレートに語っている。

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