30年ぶりの映画化…「鬼平犯科帳 血闘」で長年のファンが注目する悪役俳優の名

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悪の名演が「鬼平」を盛り上げる

「鬼平犯科帳」の一番の魅力は、無頼生活を送った経験から世の裏表を知り尽くした鬼平と、おまさのように彼を慕う密偵や部下たちによる、盗賊たちとの激しい攻防にある。密告、尾行、潜入、さまざまな手を使って盗賊を追い詰める“火盗改チーム”と闇の中でうごめく悪人たち。この悪が強いほど、「鬼平」は面白くなるのである。

「血闘」の網切の甚五郎は、“鬼平の宿敵”と呼ばれるほど深い因縁を持つ。その残忍さ、執念深さは、シリーズ屈指だ。この甚五郎を演じた北村は、熱い狂気に満ちた恐ろしい顔と不気味に冷淡な顔、ふたつの使い分けが実にうまい。

 北村はおじいちゃん子で、子供の頃から「水戸黄門」や「大岡越前」などの時代劇を見て育ち、「鬼平犯科帳」のファンでもあったという。舞台挨拶では「“逃げ切りの甚五郎”になりたかった」と笑わせたが、時代劇は世界に通用するものととらえ、本作については「日本よ! 世界よ! これが時代劇だ!!」とアピールも力強い。

 思えば、北村の父・北村和夫は、吉右衛門版で鬼平の従兄弟の三沢仙右衛門役だった。銕三郎時代の悪行も知りながら鬼平のよき理解者である仙右衛門は、時に盗賊に狙われることもある。俳優の父子がまったく違う立場で「鬼平」に関わるというのも、長年のファンにはたまらない展開といえる。

「鬼平犯科帳」SEASON1は今後、時代劇専門チャンネルで6月放送予定の「でくの十蔵」と7月放送予定の「血頭の丹兵衛」と続く。どちらも池波正太郎の原作の中でも人気の高いエピソードである。

「でくの十蔵」は、火付盗賊改方の同心・小野十蔵(柄本時生)に凶悪な盗賊の魔の手が伸びる。鍵となる盗賊・小川や梅吉を演じるのは波岡一喜だ。

 波岡といえば、2005年、井筒和幸監督の映画「パッチギ!」で威勢のいいところを見せ、昨年のNHK大河ドラマ「どうする家康」では飲んだくれだが男気ある徳川方の武将・本多忠真として強い印象を残した。狡猾、したたか、武闘派、「鬼平」にはさまざまな盗賊が出てくるが、どのパターンにも対応できる波岡の梅吉が楽しみである。

 一方、「血頭の丹兵衛」は、捕縛された盗賊・小房の粂八(和田聰宏)が「丹兵衛」を名乗り残虐な盗みを働く一味の話を聞き、それは偽物だと主張したことから物語が動き出す。かつて“殺さず、女を犯さず、貧しい者から盗まず”という掟を守っていた本格派の盗賊・丹兵衛を追って、舞台は東海道・島田宿へと移る。

 丹兵衛を演じるのは古田新太。今年、ドラマ「不適切にもほどがある!」でしょぼくれた親父役を演じて視聴者を大いに泣かせた古田は、コメディからシリアス、立ち回りもダンスもバッチリという多才な俳優。舞台「五右衛門ロック」の豪儀な五右衛門は当たり役のひとつだ。幸四郎とは劇団☆新感線の舞台「朧の森に棲む鬼」(ここでは幸四郎が究極の悪を演じている)で共演したこともあり、幸四郎から大いにリスペクトされる古田の大盗賊。こりゃ、タダじゃすまない。

 強烈な悪役を迎え、新たな鬼平の激闘が続く。しっかり見届けたい。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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