藻場を作り、サンゴも着生。スキューバダイビングが大好きな女優・木村文乃さんを驚かせた製鉄の副産物「鉄鋼スラグ」とは

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 映画・ドラマで活躍中の旬の女優・木村文乃さん。一番の趣味はスキューバダイビングで、余暇は専ら国内外の海の散歩を楽しんでいる。そんな木村さんに、「鉄鋼スラグは、海でも広く活用されていて、藻場を作ったり、サンゴを育てたりすることにも役立っていますよ」と語りかけるのは、鐵鋼スラグ協会調査広報委員会のメンバー。俄然、鉄鋼スラグに興味を抱いた木村さんに、4人の専門家が鉄鋼スラグを広く活用することの意義を伝えた。

鉄鋼スラグとは?

木村 そもそも、鉄鋼スラグとはどんなものなのでしょう。

木曽 鉄を作るときに生まれてくる副産物です。鉄は、高炉と呼ばれる巨大な炉の中で、鉄分を豊富に含んだ鉄鉱石を、石灰石や、石炭から作られるコークスと一緒に2000℃に達するような高温の中で溶かして作られます。

木村 石灰石と一緒に、ですか?

木曽 それにより鉄と石が分離しやすくなります。溶かされた鉄鉱石や石灰石は、比重の重たい鉄が下に、軽い石の成分が上に分離します。

木村 なるほど、そうやって、鉄と分離して生まれた石の成分が鉄鋼スラグなのですね。

木曽 はい。高炉で作られた鉄はまだ不純物が混ざっていて、硬いけれども強い衝撃を受けると割れてしまう。そこで、さらに転炉と呼ばれる炉に移し替えて成分を整えられ、粘り強い「鋼」へ変えられます。他にも一度使い終わったスクラップの鉄を電気炉と呼ばれる炉で再び溶かし、鋼を作ります。これら鋼が、車のボディや電化製品など私たちがふだん目にしている鉄というわけです。

木村 鉄を鋼に変える過程でも、鉄鋼スラグは生成されるのですか?

木曽 鉄を作るときに生じる鉄鋼スラグを高炉スラグと呼び、鋼を作るときに生じる鉄鋼スラグを製鋼スラグと呼びます。高炉から出てきたばかりの溶けている高炉スラグに圧力水を吹き付けると、瞬時に固まって粒が5ミリ以下の砂状のものになります。一方、ヤードに放流し、大気で徐々に冷やして固めてから破砕すると、小石状のものになります。鉄鋼スラグは、主に鉄鉱石に含まれる鉄以外の成分や石灰石からできています。したがって、自然の岩石や砂、セメントの成分と非常に似通っているのです。

木村 それなら、いろいろな用途がありそうですね。どのくらいの量が発生するのですか?

木曽 鉄1トン作る時に約300キロ、鋼1トンを作る時に約100キロの鉄鋼スラグが生じます。年間では約3200万トン、東京ドーム13個分が発生します。

木村 そんなにたくさんですか!自然の岩石や砂、セメントの成分に近いのであれば、これはもう立派な資源ですね。

環境にやさしい鉄鋼スラグ

木村 では、鉄鋼スラグは、どのように活用されているのでしょう。

稲垣 砂状や小石状に加工された鉄鋼スラグは、そのまま天然の砂や石の代用品となります。主に土木工事、例えば道路の下に敷き詰める路盤材などで使われています。

木村 天然の砂や石を使わなくてすむなら、自然環境の保護につながりますね。

稲垣 先ほど、鉄を作る際、石灰石を使う話が出ましたが、その石灰石を焼いて作る製品に、セメントがあります。鉄を作る過程に生じる副産物である鉄鋼スラグの成分はセメントととても似ており、粉状に加工した鉄鋼スラグをセメントに混ぜて使うことも行われています。

木村 それは知りませんでした。ほかにどんな用途がありますか?

稲垣 鉄鋼スラグには、鉄分やカルシウムのほか、シリカ、マグネシウム、マンガンなどのミネラル成分が含まれているので、水稲や野菜を育てるための肥料としても役立っています。

木村 陸の植物の生長に寄与するのであれば、海の中の生物にも効果がありそう。

稲垣 実は海の豊かさを守るために鉄鋼スラグは大活躍しています。これは、後程、森さんからご説明をいただきます。

木村 自然の岩石、砂やセメントの代わりになる鉄鋼スラグは、陸から海まで広く活用されているのですね。

SDGsの達成にも貢献

稲垣 2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の17の目標のうち、6つの目標で鉄鋼スラグは貢献を果たしています。例えば、鉄や鋼の副産物である鉄鋼スラグの99%は製品として世の中に役立てられており、これは目標12の「つくる責任、つかう責任」に該当します。

木村 セメントに鉄鋼スラグを混ぜているのは......。

北川 13の「気候変動に具体的な対策を」を満たします。セメントについては私から説明いたします。普通のセメントは石灰石と粘土を原料としており、これを機械で砕いて粉にして、ロータリーキルン(回転窯)で焼成します。できたものをクリンカーと呼び、これをすり潰すとセメントができあがります。以上が大まかなセメント製造工程となります

木村 そうなんですね!

北川 石灰石は、炭酸カルシウムからできている石で、焼くとCaO(酸化カルシウム)とCO2に分離します。つまり、セメントは原料由来からもCO2を発生させるのです。一方、鉄鋼スラグは、焼かなくても粉にするだけでセメントに混ぜて使え、CO2が発生しません。この混ぜたものを高炉セメントと呼びます

木村 使えば使うほどCO2が削減でき、気候変動対策に貢献するというわけですね。どのくらい、混ぜるのですか。

北川 通常、セメントの4割程度を鉄鋼スラグに置き換えています。年間のCO2削減量はざっと360万トン。最近では7割程度まで置き換えて使用される事例もあります。北海道のボールパークのエスコンフィールドや、大阪梅田の再開発でも採用されています。

木村 それは発注者側の希望でもあるのでしょうか?

北川 環境負荷を抑えたいという方向へ、発注側の意識も変わってきたといえます。

豊かな海を取り戻すために

木村 SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」で、鉄鋼スラグはどのように役立っているでしょう。

 磯焼けという現象はご存じですか?

木村 海藻が減り、海が砂漠化するという? ダイバー仲間の間でよく話題になります。

 磯焼けが広がると、魚介類の生育場だけでなく産卵場所まで消失してしまいます。ビバリーユニットという鉄鋼スラグ製品がありますが、これは海藻に鉄イオンを届ける、いわば海の肥料です。鉄鋼スラグから海中に溶け出た鉄イオンはすぐに海水中の酸素に触れて酸化し、錆となって沈殿してしまう。この製品は鉄鋼スラグと腐植土の混合物をヤシ繊維で編んだ袋に詰め込むことで、腐植土から溶け出る腐植酸で鉄イオンを包み、海藻まで届けることができます。北海道の増毛町での藻場造成事業では、コンブの生育量が飛躍的に増大し、コンブを食べるウニの収穫量も増えました。また、海藻の着生基盤や魚礁などになる石も鉄鋼スラグから作ることができます。これは「鉄鋼スラグ水和固化体製人工石材」と言って、つまりは天然石に対する人工石のことです。また、製鋼スラグとCO2を反応させて固めたマリンブロックという製品もあります。製造時にCO2を吸収するので地球温暖化防止に役立つ上、海藻だけではなくサンゴの育成にも効果を発揮します。

木村 まさに一石二鳥。私たちダイバーには何より嬉しいお話です。

 それから、港では、海底に溜まった泥を定期的に浚渫する作業が行われていますが、その際に出る泥に鉄鋼スラグを混ぜると、カルシウムが泥の成分や水と反応して適度に固まり、土へと生まれ変わります。これもカルシア改質材という鉄鋼スラグ製品の一つ。土に生まれ変わった泥で海底に光が当たる浅い場所を作ることで、深くて濁りもある都市部の埋め立て地の海が、海藻が育つ海として蘇るのです。

木村 藻場の再生は、海に囲まれた島国・日本が早急に取り組まなければならない課題
の一つですね。

 豊かな海は、環境を良くするとともに、漁師さんをはじめ水産加工業に従事する皆さんに働き甲斐のある仕事を生み出します。

木村 SDGsの目標8ですね。ダイビングをしている時、海藻のそばにいるととても気持ちが穏やかになります。環境やSDGsについて今回学んだ大事なことを、今後、自分なりの言葉で発信していきたいと思います。

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