高校野球「飛ばない金属バット」を導入も、なぜか有力校は「木製バット」の本格使用を検討…その理由は?

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「木製バット」と「滑り止めスプレー」

 どのチームも春以降に向けてあらゆる対策を考えているようだが、その一つして多くの関係者から話題にあがったものがある。それは、「飛ばない金属バット」ではなく、“木製バット”を使うということだ。

 一般的に誤解されているが、高校野球で木製バットを試合で使うことはルール上、禁止されていない。

 ある程度、技術のある選手であれば、木製バットの方が、操作がしやすく打球も遠くへ飛ぶという。もちろん、木製バットにもさまざまな基準はあるが、金属バットにある900グラム以上という重さの規定はなく、軽くて振りやすいバットを使うことも可能なのだ。冒頭でも触れたように木製バットは折れるため、経済的な負担は大きくなるものの、大学より上のカテゴリーで野球を続ける選手にとっては、早いうちから木製バットを使うことのメリットは大きい。

 しかし、木製バットを使おうとした時に問題となることが一つあるという。高校野球では「滑り止めスプレー」の使用が禁止になっているというのだ。あるチームの監督はこう話してくれた。

「高野連に確認したところ、グリップにテープの巻いてある金属バットで滑り止めのスプレーを使うと握る力が強くなって、打球も速くなって危険だからという理由とのことでした。ただ、それはあくまで金属バットでの話で、木製バットでは滑り止めのスプレーを使うのが当たり前のことではないかと話したのですが、現時点では一律で禁止だと……。飛ばない金属バットになって、木製を使おうという選手も出てくるということを考えると、このルールはすぐにでも変えてもらいたいですね」

「選手全員が木製バットで試合に出るチームが現れるかも」

 また、別の監督からは、以下のような声も聞かれた。

「うちも木製バットの使用を考えていたので、その点を高野連に確認したら良い顔をされませんでした。高野連の言い分としては、せっかく新しい基準の金属バットを作ったのだから、それを活用しなさいということだと思います。試合で木製バットを使いたくても難しいチームも多いから、そういうチームのことも考えなさいということかもしれません。ただ、練習では木製や竹のバットを使っているチームも多いですし、先々で野球を続ける選手のことを考えれば早くから試合で木製バットを使うことのメリットも大きいです。そのうち、全員木製バットで試合に出るチームも出てくると思いますね」

 もちろん、高校までで硬式野球を離れる選手は多く、経済的な負担を考えると金属バットの利点は大きい。今回の基準変更に伴って高野連も加盟校に「飛ばない金属バット」を無償で配布したことも称賛されるべきだろう。ただ、だからといって、平等を重んじるがゆえに、より高いレベルを求める選手やチームが、木製バットを使いづらいルールや雰囲気があるのはおかしな話である。また選手の安全を守ることが目的なのであれば、木製バットを使うことは何もおかしなことではないはずだ。

 近年はタイブレークや継続試合の導入、夏の甲子園ではクーリングタイムを設けるなどあらゆる点で改善への取り組みも多く見られている。それだけに今回の「飛ばない金属バット」についても、導入して終わりではなく、現場の声を吸い上げて、選手がより納得してプレーしやすい環境やルールを整えていくことを望みたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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