現地女性の形相を見て鳥肌が…ロシアから解放したはずの町に残る数々の難題【ウクライナ最前線リポート】

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住民の暮らしの場を破壊したロシア軍

 ウクライナ軍とロシア軍が対峙する前線近くには、「解放された地域」がひろがっている。侵攻してきたロシア軍に一時占拠されたのちに、ウクライナ軍が反攻によって奪還した町や村である。

 ウクライナ東部のドネツク州スビャト・ヒルスクは、ルハンスク州、ハルキウ州との境界にある保養地として知られる。丘や森、湖沼にめぐまれ、ウクライナの三大修道院の一つ、スビャト・ヒルスク大修道院など観光スポットも多い。ウクライナの平坦な地形に慣れた目には、この地の変化のある風景は新鮮だった。

 昨年夏、ウクライナ軍はこの地でロシア軍に反撃を加えて大勝利をおさめ、9月には一帯を解放した。道路端には今も、焼け焦げた戦車などロシア軍の装甲車両の残骸が数多く放置されていた。

 ウクライナ軍がロシアから奪還した町では、破損した家々がブルーシートで補修され、元の住民が少しずつ戻ってきているが、今後の復興には大きな課題があるように見えた。一つには、ロシア軍の攻撃が、軍事目標だけでなく、住民の暮らしの場をも直撃していることが大きい。一般の住宅、工場、クリニック、学校、市場などにも大きな被害が出ており、ガソリンスタンドもピンポイントで破壊されている。

 ドネツ川の支流にあるオスキルダムは、上部の構造物から水門まで徹底して破壊され、貯水池は水が抜けて空(から)になっていた。発電施設も壊され、周辺住民への電力供給がいまだに滞っている。

 今年6月に南部のカホフカダムが破壊され、下流域のヘルソン市が水没して大きな被害が出たことは国際的なニュースになった。ロシアによるウクライナ侵略では、病院や住宅地への攻撃、捕虜の虐待や拷問など戦争犯罪が繰り返されているが、生活インフラであるダムを破壊する行為もまた明らかな国際条約違反である。

物理的・心理的ダメージが目的の“小さな地雷”

 オスキルダムの周辺には、対戦車用の大型地雷から対人地雷まで、さまざまな種類の地雷が残されている。復興を妨害するためにロシア軍が意図的に敷設したものだという。ダムや発電施設の復旧を進めるには、まずこれらを取り除かなくてはならず、ウクライナ緊急事態庁の地雷処理隊が作業を急いでいた。

「この地雷がやっかいなんだ」と処理隊が見せてくれたのは、手のひらに載るくらいの小さなバタフライ(蝶)地雷だ。

 これを踏むと足指がもげる程度の怪我を負う。すると治療のための医療資源と人員が必要になり、社会に負担を強いる。そして障害者になった本人と周りの人々の戦意を削ぐ。命を奪うよりも物理的・心理的に大きなダメージを敵に与えるために考案された。

 かつてソ連軍が侵攻したアフガニスタンでは、好奇心でさわった子どもたちが多数大けがを負った。この悪意に満ちた地雷をロシア軍はウクライナに空から大量にまいた。政府は注意を呼び掛けているが、緑色の小さな地雷は、葉っぱにまぎれて気づかれにくく、すでに住民に被害が出ているという。

 ロシア軍がいなくなっても、地雷や不発弾があっては安心して暮らせない。だが、インフラの復旧が優先され、農地や森、住宅地の地雷処理はほとんど手つかずだ。処理が終わるのはどのくらい先になるかと地雷処理隊のリーダーに尋ねると、「誰にも分からない。今は戦争を終わらせることが先だ」と答えた。

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