「女が生きづらい国」での女性の連帯を描いた「セクシー田中さん」 幼稚で無神経な男たちの「伸びしろ」にも注目

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 今年にできた友人はプロのベリーダンサーだ。高円寺のペルシャ料理店で踊ると聞いて観に行ったら、もうカッコイイのなんのって。脊椎が滑らかに連係し、腹筋がまるで別の生物のように艶めかしく、激しく動く。独特の掛け声で盛り上げ、客ひとりひとりを笑顔で歓待し、ザッツエンターテインメント。心底感動した。妊孕(にんよう)性と女性性をアピールする妖艶な舞踊と思っていたが、地域や流派で踊りも曲調も異なるそうで、幅の広いダンスだと教わった。さあ、もうおわかりですね、「セクシー田中さん」の話だ。

 主人公の田中さんは食品会社の経理部で働く40歳。税理士の資格をもつエキスパートだが、超地味で無口、無表情のせいか、社内ではうっすら敬遠される存在。演じるのは、連ドラ主役が久々な木南晴夏。「家族八景」(2012年)の火田七瀬役が印象に強く残っているのだが、田中さんもグッとくる適役だ。家庭的で料理上手で倹約家で謙虚でしっかりしていて、男遊びしていなくて、誰にでも公平で、僻まず優しく寛容な女性を体現。完璧じゃんと思いきや。容姿差別で虐げられたり見下されてきた結果、誰にもこびへつらわず、依存せず、「足るを知る」生活を淡々としてきただけ。その潔さと清さの根底には、諦めと絶望の経験があるのだ。この深みを演じられるのは女優・木南ならでは。パン売ってる場合じゃない。

 そんな田中さんの生き様に感銘を受けてすっかり沼るのが、23歳派遣社員の朱里。演じるのは生見愛瑠。若くてかわいくて、物おじせず言語と主語は持っているのに、主体性がなくてモヤモヤしている女性を等身大で演じている。好感度高し。

 女は賢いと疎まれ、地味だと虐げられ、美しくないとさげすまれ、かわいいとなめられる。そんな国で、経験値も環境も異なるふたりの女が、お互いの敬意と友情を深める物語だ。女の連帯ね。

 ふたりの連帯を強固にしてくれるのは、無神経な男どもだ。チャラチャラと音がしそうなお調子者の小西(前田公輝)と、昭和的女卑思想が強烈すぎて、逆に笑える笙野(毎熊克哉)。アラフォーで幼稚性全開。

 ドラマではふたりとも暴言を吐くが、実際のアラフォーも、言葉にせずとも腹の中はこんなもんだろうな。選ぶ権利が自分にあると信じて疑わないおめでたさ。田中さんをおばさん呼ばわりするが、彼奴(きゃつ)らも同世代だからな。ただし、田中さんと朱里に出会ったことで、このふたりも変わる余地がありそうだ。変われそうだし、のびしろはある。

 朱里が一度寝てしまった男友達の進吾(川村壱馬)、田中さんが好意を抱くマスター(安田顕)は一種の必要悪ね。友達枠を自分からは越えてこない微妙な距離感、女にとっては罪深き存在よ。

「17歳が人生ピーク」と思ってきた平成っ子の朱里が、今後、何をどう身に付けてそぎ落としていくか。怒りや友情、人肌の温もりを知った40歳の田中さん、今後の人生にどう影響するのか。

 世代間ギャップを対立ではなく共闘、上下優劣ではなく対等で描いているので観ていて気持ちがいいのだ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年11月30日号掲載

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