「戦争が始まったら無傷では済まない」「島民の15%が自衛隊関係者」 台湾有事の最前線・与那国島ルポ

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 勃発の危険高まる台湾有事。いざ交戦となれば、ミサイルの脅威に直面するのが最果ての島・与那国である。現在、急速に自衛隊配備が進むが、最前線の地に息づく島人は今、何を思うのか。デニー知事の対応とは。ノンフィクション作家・西牟田靖氏がルポした。

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「自衛隊の配備には賛成の方が圧倒的に多いですよ。この間の日米共同統合演習の時も、“戦闘車両、たった1台で大丈夫なのか”“5~6台常駐させろ”など、励ましの意見をいただいています」

 と述べる糸数健一・与那国町長。一方、

「町長はやりたい放題。自己保身、自己利益。日本政府やアメリカの言いなりになって、なし崩し的に島を要塞化し、島の人たちを不安にし、不幸にしている」

 と返すのは、田里千代基町議(元議長)。

 それぞれ180度異なる主張であるが、そこには共に故郷の島を憂える気持ちが充満していた……。

「対岸の火事」では済まない与那国島

 中国による台湾侵攻、いわゆる「台湾有事」の可能性が高まっている。7月6日、習近平国家主席は、対台湾作戦などを担う東部戦区の施設を訪れ、「戦争に備えた任務の新局面を切り開くよう努めなければならない」と将兵たちに檄を飛ばした。一方、台湾も7月24~27日にかけて、中国によるミサイルなどの攻撃を想定した年に1度の防空避難訓練を全土で行っており、その際、街からは走行する自動車が1台残らず消えた。

 権威主義国家はいつ何時、武力行使に出るかわからない。これが昨年のロシアによるウクライナ侵攻から得た、国際社会の教訓である。

 その際、まさに対岸の火事で済まされないのが与那国島だ。約28平方キロと東京23区の平均ほどの面積の与那国島には、約1700人の町民が暮らしている。沖縄は八重山諸島の最西端に当たり、石垣島からは約127キロなのに対し、台湾からはわずか約111キロ。さとうきび栽培などの農業や漁業を中心とした、牧歌的な島だ。

自衛隊が進出の理由

 その島に、近年、自衛隊が進出している。

 2016年に新設された駐屯地に配置されているのは、陸上自衛隊沿岸監視隊。島内2カ所のレーダー施設で約170人の隊員が、365日24時間体制で、島と台湾の間など近隣海域を行き交う艦艇や航空機の活動を監視している。昨年12月にはミサイル部隊の配備が決定、防衛力整備計画によると2027年度までに配備される予定だ。その他、航空自衛隊のPAC3(地対空誘導弾)が今年の4月から一時配備されている。

 2010年の防衛計画の大綱で、政府は「南西シフト」へと方針を大きく転換。奄美大島、宮古島、石垣島へのミサイル部隊の配備は済んでいる。さらに今年度中に沖縄本島で部隊が新設される予定で、順調にいけば近いうちに南西諸島をつなぐミサイル網が完成する。与那国へのミサイル部隊配備はその一環であるのだ。

 それまでの与那国島には、駐在所が二つ、警察官が2名いたのみ。「2丁の拳銃」が「守り」であったが、それが随分な変わりようである。

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