味付けが80年代すぎる「真夏のシンデレラ」 古臭いと思いきや若者が好反応?

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 このドラマが始まる前に、概要を読んだ友人Yが放った言葉が「ヤングの老人化」。言い得て妙で、膝を打った。

 タイトルからして思考停止というか、シンデレラとかお姫様とか昨今では悪い意味や皮肉でしか用いられない気もするし、舞台が夏の海で、男女8人が集団でほれた腫れたを繰り広げるってのも、いにしえの香り。

 初回を観て、肌で感じたのは懐かしの80年代風味。ビーサンを投げつけてチンピラごろつきを撃退するヒロインとか、学歴&経済格差を大きな壁としながらも謎に仲良くなる集団の感覚とか、ナイフで瓶ぶた開けたくらいで感動する男とか、人命救助で陸に上げる前に泳ぎながら人工呼吸する男とか、突然すぎるキスとか。無知と無謀をロマンチックに仕立て上げようとするところに「80年代のフジテレビドラマっぽいな」と白目の面積が拡大していく。ジャジャジャーンと急にあおる音の入れ方も「東京ラブストーリー」っぽいなぁ、懐かしいを通り越してコントになってるなぁと思った。初対面で相当無礼な発言をする男を、笑って許すのは後期高齢者くらい。さては、80~90年代のフジテレビの栄華を引きずったおじさんが制作に関わっとるなと勘繰ってしまった。話題の月9「真夏のシンデレラ」の話。

 ヤングな俳優陣にフレッシュな脚本家でも、色付けと味付けがこうも古臭くなるのかと、ドラマ制作における力学の罪深さを感じた。

 夏のビジュアルとしてはいいんだよ、爽やか一辺倒で。森七菜が演じるヒロインは、サップのインストラクターで、カフェっつうか食堂を切り盛りする働き者。母が蒸発し、頼りない父親とふがいない弟をケアする姿は「家族の犠牲」という言葉が浮かぶほどの滅私っぷり。自分のことは後回し、半径3m以内の人たちが笑顔でいてくれればいいと無欲。しかも、淡い恋心を抱いていた幼なじみ(神尾楓珠)には、残酷に振り回される。

 で、サップをやりに来た金持ち&高学歴をひけらかすボンボングループと知り合うわけだ。建築会社社長の息子で東大卒、どうやら自分探し中というか現実逃避しとる間宮祥太朗に、チャラさ全開で自分を盛って偽る司法浪人生の白濱亜嵐、容姿や学歴や経済事情に対する暴言が相当ひどい研修医(萩原利久)という3人組。もうこの時点で私の頭の中に、姫野カオルコ著『彼女は頭が悪いから』がよぎる。

 七菜の友人に美容師アシスタントの吉川愛、元夫(森崎ウィン)に親権をとられそうになっているクリーニング屋店員の仁村紗和。あとは、海に落ちた仁村を助け、直球で好意を寄せるライフセーバーの水上恒司、学校の教師で神尾が執拗に好意を抱いているのが桜井ユキ、といった面々。

 役者陣に罪はないが、若者の皮を被った昭和世代の思い残し、の印象が強くてね。

 ところが、である。知人の娘(19歳)が面白いと言ったそうで。約40年の時を経て、若者には1周回って新鮮に映るらしく。シティポップと称して70~80年代の音楽も若者に人気だしね。罪深きは老害の自分と痛感した。長く生きすぎたわね。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年8月3日号掲載

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