冬ドラマ「ベスト3」 「ブラッシュアップライフ」で毎回、架空の“埼玉県北熊谷市”が登場した意義は

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全話に登場した架空の自治体・埼玉県北熊谷市

 近年のドラマはあまり目を向けない地元というものに焦点を合わせ、その意味を問い掛けてくる作品でもあった。麻美が3周目人生で日本テレビに就職しようが、4周目人生で研究医になろうが、地元である架空の自治体・埼玉県北熊谷市は全話に登場した。

 一時期、地元志向が強く、イオンなどのショッピングモールを愛し、幼なじみとの日常が続くことを願う人たちを「マイルドヤンキー」と呼んで特別視する向きがあったが、それに対するアンチテーゼの一面もあったのではないか。麻美たちはほぼマイルドヤンキーのような生活を送っていたものの、幸せそうだった。

 麻美は北熊谷の西霞中学卒業という設定だったが、脚本を書いたバカリズム(47)の地元は福岡県田川市で、同市立中央中学校を卒業した。同校は今月末で62年の歴史に幕を下ろす。
 
 閉校式に当たり、バカリズムは幼なじみの同校教諭の依頼を快諾し、ビデオメッセージと寄稿文を寄せた。その中で中学時代をこう振り返った。

「当時、嫌いだった学校も好きだったモノも、全てが今の自分の創作活動の原点」(バカリズムの寄稿文より)

 学校関係者たちは地元を愛し続けているバカリズムに感激した。バカリズムはドラマ界が忘れかけていたところを突いてきた。

ベスト冬ドラ:「罠の戦争」(関西テレビ、フジテレビ系)

 メディアの堕落と権力の腐敗に踏み込んだ2022年の秋ドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-」に続き、関西テレビのドラマはエッジが効いていた。

 最終回(第11話)。権力という魔物に取り憑かれていた鷲津亨(草なぎ剛・48)は全てを失い、やっと目が覚め、鶴巻憲一・前幹事長(岸部一徳・76)によるゼネコン汚職、竜崎始首相(高橋克典・58)の反社会的勢力との結び付きを配信動画で告発した。

 それを途中で首相秘書官に強引に止められると、こう言い放った。やや長いが、引用したい。

「秩序が壊れる? 国が乱れる? ガス抜きのためにまた総理を変えなきゃならない? 何が秩序だ! この程度で壊れるぐらいのものなら 、壊れればいい。古いモノがなくなったら、新しい芽が出る。俺たちが見たことのないような新しい何かが。(中略)不正を隠蔽してまで守らなきゃいけない? そんな政治なんて、壊れちまえばいいんだよ!」(鷲津)

 多くの人の思いを代弁するようなセリフだったのではないだろうか。加えて唸ったのが、竜崎首相側がシンパの記者に指示し、鷲津のテレビ中継を途中で打ち切るという筋書きだったこと。

 物語にその名称は登場しなかったが、鷲津の会見に出ていたテレビ局の記者は内閣記者会に所属している。現実の記者会が中継を打ち切れるか、打ち切り指示に従うかは分からないが、政治家との距離の取り方などで記者会への批判が存在するのは事実だ。

 中継が遮られた鷲津は代わりに配信動画で告発を続けた。テレビの政治報道の限界も暗に示したわけで、こういうシーンはドラマでは珍しい。

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