投手四冠「山本由伸」が明かした“一番いい球”とは “世界最高峰”に挑む日本のエースは、いま何を考えているのか

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 3月8日に開幕する第5回ワールド・ベースボール・クラシックは「世界一」を懸けた戦いであると同時に、「ショーケース」としての意味合いもある。近い将来メジャーリーグにやって来るかもしれない選手たちは、果たしてどれだけの実力を誇るのか。2006年の第1回大会でMVPに選出された松坂大輔(元レッドソックスなど)や、2009年の第2回大会で優勝投手になったダルビッシュ有(現パドレス)には海の向こうからそうした視線が向けられた。今回同様の注目を集めるのが、2023年オフにポスティングシステムでのメジャー移籍が噂される山本由伸(オリックス)だ。<5回連載の第5回>【中島大輔/スポーツライター】

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 松坂やダルビッシュと異なり、山本は高校時代から脚光を浴びたわけではない。プロ入り後に頭角を現し、高卒5年目に投手四冠(最多勝、最優秀防御率、最高勝率、最多奪三振)を獲得、最優秀選手と沢村賞に選出された。

 当時23歳にしてプロの頂点までたどり着いたことを、本人はどう感じているのか。昨年の春季キャンプが始まる数日前、直接尋ねた。

「どうでしょうね。いい方向に来ているなとは思いますけど。正直、特に何もないです」

 賞やタイトルはあくまで他人との比較で決まるものだから、何も感じないのか。

「本当に、特に何もないです」

 威勢のいい言葉を引き出したかったわけではない。自身の成長スピードをどう捉えているのか、率直な胸の内を聞きたかった。

 だが、山本は「何もないです」と繰り返すばかりだった。

 言葉をどう継ごうかと思案する私の胸中を察してくれたのか、隣で聞いていたトレーナーの矢田修が助け舟を出してくれた。

「素敵な女性がおったとしますよね。モノにしたいと思うじゃないですか。彼にとっていろんなタイトルは、その女性の家族くらいにしか思っていないと思うんです。狙っているのは、その女性であって。でも、女性の家族もうまいこと付き合わなかったら、モノになれへんし。でも狙っているのは女性の家族じゃなくて、その女性だから。そういう感じだから、(タイトルをいくつ獲っても)気楽にしていられると思うんです」

世界に類を見ないピッチャーになりたい――

 2017年4月、山本は初めて矢田の下を訪れた。高校時代から最速151km/hを投げてきた代償で、右肘の張りに悩まされた。そうした話を聞いた知人が、柔道整復師の矢田を紹介してくれた。過去4回の連載で記したように、それが「日本のエース」へ駆け上がるきっかけになった。

 当時18歳、プロでまだ一軍未登板の右腕投手は、その頃からはるかな高みを見据えていたと矢田は証言する。

「もちろん今とはレベルが違いましたけど、見ているところには『世界で一番のピッチャー』がありました。だから、そういう基準で話が進んでいきましたよね。今の活躍にそれほど喜ばないのもそんな理由なんです。日本一やメジャーというのは、目指す過程にあるものなので」

 世界に類を見ないピッチャーになりたい――。

 山本が当時から秘める野心だ。

 矢田から学んだBCエクササイズの真髄をどうすればピッチングに活かせるかと追求し、独特な投球フォームにたどり着いた。そこから投じられるのは、周囲とは明らかに異質なボールだ。

 例えば、最速151km/hのフォーク。打者にはストレートのように見えて、手元で突如落ちるから対応できない。

「もともと矢田先生と『150km/hのフォークを投げよう』と言っていて、投げられるようになったのが今のフォークです」

 2022年4月2日の日本ハム戦で2回二死、6番・レナート・ヌニエスに151km/hのフォークでバットに空を斬らせると、相手のBIGBOSSこと新庄剛志監督に「151km/hのフォーク、打てるかー。初めて見た」と言わしめた。

 なぜ山本は、誰も投げられないような球を操れるのか。

「150km/hのフォークを目指したというより、ちゃんと力を伝える方向が合った結果として150km/hが出て、ちゃんと落差もある程度あってというのが狙いです。150km/hのフォークが投げられるようになったのは、正しく投げたからだと思います」

 もう一つの武器、カットボールも独特だ。球速140km/h台後半でストレートのように迫っていき、打者の手元で斬りつけるように曲がる。

 そうした軌道を描くのは、「あまり手で曲げてない」という点にヒントがある。

「『どうやって投げているの?』とよく聞かれるんですけど、『ここをこうして』と教えてあげたとしても、その人の身体ではできなくて。自分の感覚だし、自分がここまでやってきた動作の練習があります。基本的な動作に見えて、その積み重ねが本当に大事で、それで少しいいカットを投げられるようになったという感じです」

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