財務省に取り込まれた岸田首相が夢見る2023年のベストシナリオ 背景にある「将来のための増税」

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野党は手が出せない

 岸田文雄首相は4日の年頭会見で、異次元の少子化対策とインフレ率を超える賃上げの実現をテーマに掲げた。来年9月にやって来る自民党総裁選での再選から逆算し、今年に勝負をかけるスタンスがうかがえるが、その実態とは?

「異次元という言葉遣いは“映える”感じがあってよかったと思います」

 と、政治部デスク。

「まず、安倍・菅という過去の政権では少子化に腰を据えて取り組む感じはありませんでしたから、“変わった感”を出せるとは思います。さらに、少子化対策に異論をはさむ人はほとんどいないので野党対策にもなる。去年の8月以降、首相の判断ミスが重なって内閣支持率が続落してきた中、その悪い印象を払拭する意味でも、改めて年頭にテーマとして掲げる分にはこれ以上ないものだと感じましたね」(同)

 それはインフレ率を超える賃上げの実現も同様で、

「天皇陛下が年明けに物価高への懸念に言及されたこともありますし、触れておくべきテーマだったと思います。賃上げ自体に反対する人は皆無でしょう」(同)

 もっとも、賃上げはともかく、少子化対策の方の中身は生煮えで、各メディアは様子見といったところだという。

「ひとくちに少子化対策と言っても、それは広範囲に渡ります。合計特殊出生率の上昇という意味で過去に成功した他国の例を参考にしているのでしょうが、結局は予算との兼ね合いで“どこまでどれだけできるのか”ということになるでしょう」(同)

財務省の囁き

 岸田首相は昨年末、「防衛費増額に伴う増税」案に触れた際、「今を生きる我々が将来世代への責任として」との文言を使っていた。

「今回の少子化対策も同様で、首相にとって“将来世代への投資、将来世代にいかにツケを残さないか”という問題意識が根底にあるようですね。ただ、そのための財源として国債ではなく増税を口にしたあたり、“財務省の声の大きさ”が見え隠れしています。“財務省が国家の将来を囁いて政治家を取り込む手練手管は他を圧倒している。首相はそのヒロイズムに酔いしれているだけだ”と指摘する人も少なくありません」(同)

 近隣諸国からの脅威、国内の空洞化という日本が直面する大きな課題の克服を掲げ、それを解決するためには国民にも負担をお願いする――これはまさに財務省のロジックだというわけだ。それはともかくとして、今後の流れについてシミュレートしてもらおう。

「首相としてはこの通常国会で来年度予算案を早期成立させるのが最初の関門。野党から政治とカネや旧統一教会のことでネチネチ攻められても、先ほど言ったように“日本の喫緊の課題に正面から取り組んでいる、ぜひ協力を”と丁寧に訴えかければ、野党も全否定はしづらいので切り抜けやすい」(同)

ベストシナリオとは?

 特に閣僚の新たなスキャンダルが浮上しない限り、この手法で予算案の早期成立までは辿りつけそうなのだという。

 ただし、その後は、4月の統一地方選と衆院千葉5区(薗浦健太郎氏の辞職)、和歌山1区(岸本周平氏の辞職)、山口4区(安倍晋三氏の死去)の補欠選挙が待ち構える。

「補選はともかく、統一地方選で足をすくわれる可能性は十分にありますね。何とかそれまでにイメージアップを図り、支持率をあげておきたいところでしょう。それもあっての少子化対策と賃金アップなのだと思います」(同)

 それを乗り切れば5月には地元・広島でのG7サミットの開催となる。

「さすがにここは首相の独壇場で野党は手が出ないので、支持率はアップするはず。そのままの勢いで夏を迎えたいとの考えがありますね。そして9月には自民党役員人事と内閣改造を敢行、支持率が上昇を続け、選挙区などの情勢調査でもそれなりに優勢と見るなら、臨時国会冒頭での解散なども想定されます」(同)

 ここまでは岸田首相にとってベストシナリオと言えるだろう。その一方でこんな声が聞こえてきた。

ブレすぎな首相

「首相はブレすぎですね。例えば、防衛増税の時期について、去年までは“国民に負担をお願いするのは2024年以降の適切な時期で、2027年までの間だ。スタート時期はこれから決定するが、それまでには選挙はあると思う”と述べていました。防衛増税を実施する前に解散があると言ったわけですが、それが年頭会見では、“税が上がる前に選挙があることも日程上、可能性の問題としてあり得ることを言った”と軌道修正しています。解散時期について事実上の解散権を握る首相が言及するのは拙いですし、それを修正するのもセンスを疑いますね」

 と、別の政治部記者。

「去年、首相が解散時期について言及した背景には、萩生田光一政調会長の“7月の参院選で増税は約束していない。明確な方向性が出た時には国民に判断いただく必要も当然ある”との発言が影響しています。萩生田氏は可能なら増税を回避すべきだとの考えを持っており、増税に突き進む首相をけん制したわけですが、首相はそれが気に入らなかったのでしょう」

増税を避けたい人は

 いわば「増税をお願いする選挙をやって勝ってやるよ」と大見えを切ったものの、そこから一気にトーンダウンしたわけだから、普通なら求心力が低下してもおかしくないはずなのだが……。

 それでも求心力低下や「岸田おろし」が発生しないのは、野党の体たらくと「ポスト岸田」が決定力に欠けるというのは、これまで報じられてきた通りだ。

「政権を奪われて下野するというピンチに瀕すれば選挙の顔を担ごうという動きが出てくるわけですが、野党が弱いままなのでそれはない。加えてポスト岸田とされる茂木敏充幹事長や河野太郎消費者担当相はそれぞれ難点があり、強い対抗馬になり得ていない。結果として首相は今回のようなミスがあっても延命できているというわけです」(同)

 これまでの話を総合すると、岸田首相はとにかく政権の安定運営に務めて支持率上昇を待ち、しかるべきタイミングで「日本の将来のための増税」をテーマに選挙に打って出る可能性があるということだ。

「増税を訴えて選挙に勝つのは至難の業ですが、野党が低空飛行のままなら多少の議席を減らしても続投できるでしょう。逆に増税を訴えての選挙が嫌なら、統一地方選までが勝負かもしれませんね」(先のデスク)

デイリー新潮編集部

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