高市未来 結婚後初の大会で優勝 メダル無しで「もうやめたい」からパリ五輪へ前進

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夫の賢悟さんも実力者

 遡って高市は、11月に千葉市で行われた講道館杯で東京五輪以来、初めて公式戦で姿を見せ、「復活優勝」を遂げている。この時は、決勝後に涙ながらに「何度ももうやめなきゃいけないと思うことがあった。今日の優勝でパリ五輪に向けて少しだけ歩めた」などと語っていた。

 淑徳高校(東京)からコマツに入り10年。世界の第一線で戦う彼女を私生活でも支えてくれたのが、柔道家として世界選手権にも出場した実績を持ち、ことし5月に引退した1歳年上の夫の高市賢悟さん(29)だった。

 愛媛県出身の賢悟さんは、世界選手権の団体戦では2度も優勝メンバーになった実力者。男子66キロ級の全日本体重別選手権では高校3年生だった阿部一二三 に一本勝ちしたこともある。しかし、阿部、丸山城志郎(29)=ミキハウス=、海老沼匡(引退)らの強豪がひしめいた66キロ級では五輪に届かなかった。高市は、夫の姿に「好きなことをやれることは当たり前のことではないと感じた」という。

金色の刺繍で「高市未来」

 結婚により姓を変え、その後の活躍も目覚ましい格闘技選手といえば、東京オリンピックで金メダルをつかみ取った女子レスリング53キロ級の志土地真優 =ジェイテクト=(25)がいる。旧姓は向田。至学館大学の主将として、名門チームを引っ張り、世界選手権は今年のベオグラード大会を含めて3度優勝している。常にトップクラスに居ながらオリンピックにだけは縁がなかった。念願の東京五輪代表となり、コーチだった志土地翔太さんと東京五輪の少し前に結婚していた。

 東京五輪では、4試合を勝ち上がった後の決勝で中国の龐倩玉と対戦。第1ピリオドが終わった時点で0-4で劣勢になったものの、インターバルタイムで翔太さんの檄とアドバイスを受けた第2ピリオドで一挙に5点を取り、5-4で龐を破って金メダルを獲得した。1点リードして最後、離せば逆転されかねなかった相手の足首をマットサイドの夫の檄で、死んでも離さず、金メダルを獲得した。実に感動的な光景だった。

 柔道にはセコンドの役割がないから、賢悟さんが畳の横に立って妻にはっぱをかけるわけにはいかないが、会場で応援していたようだ。高市は、柔道第一の生活のためにコマツの寮での生活を続けているといい、週に1度しか賢悟さんと一緒に過ごせないという。

 大会前から予想もされていたが、グランドスラム東京大会では女子63キロ級のベスト4がすべて日本勢だった。高市の決勝相手だった渡邉聖子は準決勝で今年の世界選手権(タシケント)の王者、堀川恵(27)=パーク24=を破っていた。パリ五輪へ向けて鍋倉那美(25)=了徳寺学園職員=を含めた4人を軸に熾烈な代表争いがいよいよスタートした。

 齢30にしてパリ五輪の畳に立つため、賢悟さんとの「二人三脚」の戦いに歩み出した彼女の腰元に締められた黒帯には、金色の刺繍で「高市未来」と縫い込まれていた。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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