スペインに歴史的勝利 堂安律がブンデスリーガ移籍で開拓した新境地を見た

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新境地を開拓した堂安

 それは“ミス”と呼べるような綻びではなかったかもしれない。後半3分、MF三笘薫(ブライトン)とFW前田大然(セルティック)のプレスを受けたCBロドリ(マンチェスター・シティ)が左サイドに展開する。パスを受けたバルデはトラップを浮かせてしまう。そこに右MF伊東純也(ランス)が猛然と襲いかかり、空中戦で激突した。

 こぼれ球は後半から交代出場の堂安律(フライブルク)につながり、堂安は浮き球を収めると得意の左足を一閃(いっせん)。強烈な一撃はGKウナイ・シモン(アスレティック・ビルバオ)の手を弾いて右サイドに決まった。

 一時は代表を外れた堂安だが、以前はマーカーを抜き切ろうとして奪われるなど、持ちすぎが目立った。レフティーゆえに、得意のカットインも読まれることが多かった。しかし、昨シーズンにブンデスリーガへ移籍してからは、相手を抜き切る前にシュートを放ったり、タテへの突破から右足でクロスを送ったりするなど、新境地を開拓して代表に復帰した。

 代名詞でもある「ビッグマウス」は健在で、スペイン戦を前にしても「もちろん最高の状況。結果が出た時に批判してくれている方を含めて全員が喜べるように。喜んでいるイメージはできています」と勝利を想定していた。

伝説に残る勝利

 そしてその言葉通り、同点ゴールの3分後には右サイドから右足でクロスを送り、左サイドではゴールラインを割ったかと思われたボールを三笘が折り返す。するとゴール前に詰めていたMF田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)が身体ごと押し込んで逆転に成功した。

 右SB酒井宏樹(浦和)とボランチ遠藤航(シュツットガルト)の負傷欠場は仕方ないにしても、攻撃陣はドイツ戦と同じスタメンに戻しつつ、後半開始からアグレッシブな選手交代で「攻撃のリズム」をつかんだ日本。同点ゴールに続き、畳みかけるような攻撃でなければ決勝点は生まれていなかった可能性も高い。

 勝負どころを逃さなかったGK権田修一(清水)からのロングパスと伊東の収め、そして田中から堂安へという一連の流れは、最後は三笘の粘りもあったが見事と言うほかない。

 そしてエンリケ監督はウィリアムスに代えてF・トーレス、バルデに代えてJ・アルバと主力をピッチに戻すなど5人の交代カードを切ったものの、一度失った“流れ”を取り戻すことはできなかった。

 ドイツに続きスペインまで倒してのグループリーグ突破は、日本サッカー史にとっても快挙と言える。W杯で過去の優勝国に勝ったのは初めてのことだし、勝ち方もこれ以上にないほど劇的で、まさに「筋書きのないドラマ」だった。

連戦のリスク

 カタールW杯は中3日の連戦だが、過去の大会ではグループリーグとラウンド16の間には3日ほどのレストデーがあった。

 しかし今大会は、レストデーがなく連戦となっている。ここらあたりも指揮官がターンオーバーを考えなければならなかった原因だろう。

 しかし、スタメン変更は大きなリスクを伴う。それをグループリーグで痛感できたことは、日本のサッカー界にとって大きな財産と言えるだろう。

六川亨(ろくかわ・とおる)
1957年、東京都生まれ。法政大学卒。「サッカーダイジェスト」の記者・編集長としてW杯、EURO、南米選手権などを取材。その後「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。

デイリー新潮編集部

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