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犯人は瑛太で決まりか

 第2話。斎藤は2006年に14歳の中学生・井川晴美(葉山さら[16])が殺された事件について、「捜査のごく初期の段階で割と重視された目撃証言があった」と恵那に教えた。

 その証言によると、晴美と一緒にいた男は当時20代くらいで、長髪、長身。2人とも笑顔で死体遺棄現場の八頭尾山に向かったという。この時点まで斎藤は恵那たちに協力的に見えた。

 ところが、第3話になって、恵那たちの取材が進むと、斎藤はハードルを上げる。「遺族(のインタビュー)は取れたか?」。放送させたくないようだ。

 この言葉に恵那が発憤し、井川晴美の姉・純夏(木竜麻生[28])の取材を実現させると、斎藤は恵那の家に突然やってくる。

「どうしても話したいことがあって」(斎藤)

 しかし、恵那のビデオが放送不適切になったことを知ると、恵那との情事だけ済ませ、何も言わずに帰る。直後に斎藤が会ったのが副総理で元警察庁長官の大門雄二(山路和弘[68])だったことを考えると。恵那に放送見合わせを迫るつもりだったのだろう。もっとも、恵那は独断で放送するのだが――。

 連続殺人の第1容疑者は路地裏商店街でアンティークショップを営む長髪の男(永山瑛太)だろう。井川晴美殺害前に目撃された男と条件が一致する。晴美の家とショップは近所だから、以前から知り合いだった可能性があり、そうなると笑顔で一緒に歩いていても不思議ではない。

 犯人はこの男で決まりではないか。「それでは簡単すぎる」と拍子抜けする向きもあるだろうが、冤罪を晴らす際に一番難しいのは動かぬ証拠を見つけ、さらに裁判所に間違いを認めさせること。途方もなくハードルが高い。

 そもそも、この作品は謎解きをメインテーマとしていないはずだ。組織や社会の問題点をスケッチし、同時に恵那が「本当の真実」を伝えられる人になれるかどうかが描かれる。

 この作品の構成は独特。その1つはナレーションを拓朗と恵那が交互に担当していること。第1話は拓朗で、第2話は恵那、第3話は再び拓朗だった。

 これにより、2人の相手に言えぬ内面、冤罪取材への思いの差異が鮮明になっている。渡辺さんの執筆作業は大変だろうが、観る側としては物語が立体化して面白い。

 胸を衝かれるセリフを助演者に言わせることが多いのも特徴である。拓朗が出席した学友の結婚式の後、やはり学友の悠介(斉藤天鼓[23])はこう口にした。

「何も考えず、悩まず、ハナを効かせ、長いものに巻かれる。それが人生に勝つということなんです。どうやら……」(悠介)

 渡辺さんのメッセージは重い。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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