ツナ缶に「虫」混入で「1億円」賠償命令 50年来の「下請け業者」を破産危機に追い込む“注目判決”の知られざる裏側

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「返品缶詰」を転売

 両社による話し合いは続いたが、はごろもフーズ側に取引再開の意思は見て取れず、興津食品が廃業の意向を固めていた17年11月、はごろもフーズが提訴。今回の判決は5年越しのものとなる。

 はごろもフーズ側が請求した9億円近くの損害賠償の内訳は、虫混入缶が見つかったスーパー運営会社への賠償金や、騒動を受けてキャンセルを強いられたCMなどの広告宣伝費。さらにクレーム対応の人件費やコールセンター設置にかかった費用、そして一連の報道の影響で家庭用シーチキンの売上が想定を下回った分の逸失利益などが含まれる。

「製造元として虫が混入してしまったことについては大変申し訳なく思っていますし、はごろもフーズに損害が生じたなら相応の賠償にも応じるつもりでした。けれど、これまでツナ缶製造を二人三脚で行ってきたにもかかわらず、批判が高まると“混入の責任はすべてお前たちにある。うちも被害者だ”と手の平を返すような態度に転じた。実は裁判の過程で、騒動で返品された興津食品製造の缶詰をはごろもフーズが転売していた事実が明らかになっています。つまり食品の安全性や品質そのものには問題がなかったことを同社が認識していたということです」(増田氏)

控訴か、破産か

 舞台となった工場は18年に解体され、いまは更地になっている。はごろもフーズとの取引が打ち切られたことで現在、興津食品も実質「廃業」状態にあるという。

「ここまで追い詰められた背景には、はごろもフーズと興津食品との関係が歪なものであった点が挙げられます。はごろもフーズ以外の会社と取引するには事実上、同社の同意が必要で、実際、かつて日本ハムグループの1社から取引の申し入れがあり、はごろもフーズにお伺いを立てたところ“他の会社と契約するなら、うちとの縁を切ってからやるように”と言われ断念した。そんな理不尽な要求にも堪え、はごろもフーズに50年近くも“忠誠”を誓ってきた結果がこの仕打ちではあまりに報われません。判決後、複数の同業他社から“裁判で証言はできないが酷い話で同情する。明日は我が身かもしれない”といった声が寄せられています」(増田氏)

 はごろもフーズに取材を申し込んだが、

「現状、判決文を精査している段階でもあり、コメントは控える」(同社企画部)

 との回答だった。

 判決が確定すると破産手続きに移行せざるを得なくなる可能性も生じるといい、興津食品側は控訴する方針だ。

デイリー新潮編集部

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