妻の介護のために90代からジム通い 映画にもなった101歳が語る“読書漬け”の日々

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 100歳を超えても元気に生きる人々――。彼らの生活習慣や人生哲学には、「百寿の奥義」が詰まっているといえるだろう。老いゆく両親のリアルを描いたドキュメンタリー「ぼけますから、よろしくお願いします。」(信友直子監督)で“主演”を務めた信友良則さん(101)へのインタビューから見えてきたものとは。【井上理津子/ノンフィクションライター】

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 広島県呉市。人口約21万人のこの街に、知る人ぞ知る101歳が住んでいる。

 信友良則(のぶともよしのり)さん。

 ひとり娘の信友直子さんが監督の「ぼけますから、よろしくお願いします。」(2018年)と、続編「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」(目下、全国順次上映中)。老いゆく両親のリアルを撮ったこの2本のヒット映画の主役だ。同名の2冊の本(『ぼけますから、よろしくお願いします。』『ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえりお母さん』)(新潮社)も版を重ねている。

 私はこの夏、2本立てで映画を観た。良則さんを軸に説明すると、夫婦仲良く暮らしていたが、8歳下の妻が徐々に認知症を患っていき、「わしがおっ母の面倒をみる」。それまで一度もしたことのなかった家事もひとりで担い、自宅暮らしを続けるが、やがて妻が入院……。上映後のロビーで「あのお父さん好き」「日本中のお父さんの鑑(かがみ)よね」と、60~70代と思しき観客2人が語り合っていたことを思い出しながら、呉へ向かった。

部屋の半分を占拠する本や雑誌

 良則さんの住まいは、市街地に建つ、年季の入った一軒家だ。2年前、愛妻に先立たれた(没年91)。この日のように直子さんが帰省している日が増えたが、基本一人暮らしである。

「ようこそ。こんにちは」

 ハリのある声で迎えてくださった。肌がツルツルだ、髪がふさふさだ、と元気そうな外見に驚いている場合ではなかった。通されたダイニングから8畳の和室が見え、目が点になった。本や雑誌が山のように積まれ、部屋の半分を占拠していたからだ。

 直子さんが言う。

「触らせてくれない(笑)。本に日が当たるとイケンと、窓のカーテンも開けさせてくれないんですよ。昔はこうじゃなくて、テーブルと椅子の3点セットを置いていたんですけどねえ」

 そこには、他にも仏壇、タンス、衣装ケース、敷きっぱなしの布団。まさに足の踏み場もないが、この部屋こそ良則さんの「お城」だとピンとくる。

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