夏ドラマNo.1は「石子と羽男」 視聴者の支持を得た“3つの理由”

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キャラクター設定の妙

 第2に主人公2人のキャラクター設定が抜群に良かった。石子はルールに拘る石頭である一方、何事もコツコツやる堅実な人。東大法科大学院を首席で出たものの、司法試験には4回落ちている。あと1回しか受けられない。なにより、弁護士資格がないから、1人では依頼人を助けられない。

 能力がない訳ではない。第7話で分かったことだが、1回目の試験の直前、交通事故を間近で見たことがトラウマになった。試験中は頭が真っ白になってしまうようになってしまった。

 羽男のキャラもいい。何でも1度見たらおぼえてしまう「フォトグラフィックメモリー」の持ち主で、この能力だけで司法試験に一発で通った。法律も判例も瞬時に丸暗記できる。

 この能力を鼻に掛けたら嫌味だが、羽男は真逆。この能力だけで弁護士になったことに劣等感を抱いていた。それを隠すため、必死に天才弁護士を装っていた。変人である。

 羽男は石子と出会うまでは想定外の出来事に対応できなかった。おぼえられるだけの人だったからだ。そのために自信もなかった。以前の勤務先「リック&ベンジャミン法律事務所」もクビになった。

 だが、石子とコンビを組むようになり、徐々に変わった。苦手な交渉事や法廷戦術のシナリオは全て石子が書いてくれる。心に余裕が生まれた。さらに石子から「十分有能」(第3話)と太鼓判を押してもらったことで劣等感も消えた。

 フォトグラフィックメモリーは凄い能力にほかならない。羽男はカフェのメニューも携帯電話の履歴も映画も1度見ただけで全ておぼえてしまった。事件や問題の解決に結びついた。

 もっとも、この能力を羽男が頻繁に使ったら、異能力者の物語になってしまい、ドラマとしては妙味に欠けてしまう。子供向けになりかねない。もちろん作品側もそれが分かっていて、能力の使用は限定的にした。これも良かった。

 長所と短所を持ち合った石子と羽男。うまい組み合わせを考えたものだ。

ハマったキャストたち

 第3に有村架純(29)と中村倫也(35)の好演はもちろん見逃せない。有村は何を演じても自然でうまいが、石子のような生真面目な女性役は特にハマる。

 中村の演技は相変わらずピカイチ。紳士役もうまいが、羽男のような変人役は惚れ惚れするくらい巧み。この人くらい変人をスマートに演じられる人は珍しい。

 さだまさし(70)もまた適材適所。さだほどの大物アーチストになると、プロの俳優に位負けしない。作品の重しの役割を果たしている。

「潮法律事務所」の近くにある蕎麦屋の跡取り息子・塩崎啓介役のおいでやす小田(44)の起用も当たった。この人が登場すると、その場面がカラリと明るくなる。貴重な存在に違いない。

 これだけ好材料が揃うと、人気作品になるのは当然。ここ5回の世帯視聴率は7%前後に過ぎないものの、これは各局がほとんど使わなくなっているデータ。各局が重視するコア視聴率(基本的には13~49歳の個人視聴率)はAクラスだ。

 また録画視聴の割合を表すタイムシフト個人視聴率を見ると、8月中は全連続ドラマの中でトップだった。

 さて、最終回の行方は――。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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