「西郷輝彦」が時代劇でやってみたいと言っていた人物は誰か

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現代劇と時代劇の掛け持ち

 この作品で、沖田は最期に猫を斬る。天才剣士と言われながら志半ばで散った若者の悲しみが描かれる繊細なシーン。そこで監督は、沖田の着物の色がイメージに合わなかったため、「よっしゃ、わしが染めたる」と自ら納得いく色に染めてきた。

「地味だけどいい色でね。手作りのすごい現場だなあと感激して、時代劇がいっぺんに好きになったんです」

 驚くのは、「どてらい男」撮影が続く中で、時代劇の代表作ともいえるナショナル劇場枠の「江戸を斬る」(TBS系)シリーズに町奉行・遠山金四郎役で主演したこと。西郷金さんは遊び人ではなく普段は魚屋「魚政」で世話になり、鼠小僧次郎吉(松山英太郎)や岡っ引き(高橋元太郎)、新門辰五郎(中村竹弥)、千葉周作(中谷一郎)、女岡っ引きお京(ジュディ・オング)などとチームで探索をする。中でも松坂慶子が演じるおゆきは、魚政の看板娘にして実は水戸斉昭(森繁久彌)の娘である。剣の腕もなかなかで、いざとなると「紫頭巾」となって恋しい金四郎とともに戦う。後に夫婦となるおゆきと金四郎のやりとりは、ほとんどラブコメ&ホームドラマであった。

 金さんになくてはならない桜吹雪の彫り物を描くには、片方の肩だけで2時間はかかる。その後、着物でこすれて消えないように粉を大量にふっておいて、いざ桜吹雪を見せる直前に熱いお湯に浸したバスタオルでぱんぱんと粉を叩いて落とす。すると、地肌もあたたまって、桜が実に鮮やかになるのだ。

熱烈なアップルファン

「長年、撮影所で培った技術ですよね。刺青担当の人から『よっしゃ、行けやー』と送り出される。これが気持ちよかった」

 こういう現場の雰囲気を愛した人だった。

 もう一作、西郷輝彦本人が印象的だと語っていたのが、昭和62(1987)年のNHK大河ドラマ「独眼竜政宗」の片倉小十郎だった。東北の勇者・伊達政宗(渡辺謙)のために命を投げ出すほどの覚悟を決めた優秀な家臣である。政宗の補佐役としての力を見込まれた小十郎は、豊臣秀吉(勝新太郎)に破格の条件でヘッドハンティングを打診される。天下人に逆らえば命はない。だが、小十郎は、「恐れながら申し上げます! 小十郎は自分が屍として(秀吉のもとに)参る分には構いません」ときっぱりと拒絶。その言葉を聞いた政宗も泣く。このドラマで無名に近かった片倉小十郎は人気となり、女性からのファンレターが急増したという。

 この他にも、「江戸を斬る」と同じ原案・脚本の葉村彰子はじめとするスタッフが集結して製作された「清水次郎長」(フジテレビ系)では、元武士の大政(中村敦夫)、小政(和田浩治)、森の石松(尾藤イサオ)、追分三五郎(松山英太郎)、桶屋の鬼吉(大和田獏)、法印大五郎(谷幹一)ら個性的な子分たちを率いたカッコいい次郎長親分に。「源九郎旅日記 葵の暴れん坊」(テレビ朝日)では、将軍・徳川家慶(田村高廣)の弟で万一の際には将軍の「お控え様」として悪を懲らしめる松平源九郎に。「必殺スペシャル 必殺仕事人意外伝 主水、第七騎兵隊と闘う 大利根ウエスタン月夜」(朝日放送制作・テレビ朝日系)では、仕事人・中村主水(藤田まこと)たちがアメリカ西部にタイムスリップした先にいた次郎衛門(西郷)がジェロニモ!?なんてこともあった。好奇心旺盛で、奇想天外な設定も楽しんでいたに違いない。

 パソコンがほとんど普及していないころからの熱烈なアップルファンで、新機種が出ると行列してでもいち早く買わないと気がすまない新しもの好き。「いつか斬新な織田信長になってみたい」と語っていた。

「美味しいコーヒーや金平糖を好んだという先進的な信長に惹かれる。やっぱり新しいもの好きなんだね(笑)。誰も演じたことのない信長になってみたい」

 西郷さんなら、PCを操る信長だって、きっとできたはず。見たかった。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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