大谷翔平、投球進化でベーブ・ルース超え…日本人初「サイ・ヤング賞」の可能性は

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「大谷ルール」と「飛ばないボール」が追い風に

 昨季の先発降板後は、指名打者(DH)としてゲームに残るルールがなかったため、大谷は長いイニングを投げようと、あえて打たせて取って球数を浪費しないようにしていた。だが、今季はDHで残れる「大谷ルール」が導入され、序盤でもここぞという局面では力を全開にできている。そうした環境の変化が奏功し、5月5日のレッドソックス戦では11奪三振で3勝目を挙げ、過去にCY賞投手の球を受けてきた捕手のマックス・スタッシも「CY賞を取るような投手はピンチでギアを上げる。きょうの大谷もそうだった」と端的に変化を指摘した。

 さらに、「飛ばないボール」も追い風だ。近年の「フライボール革命」で2019年はリーグ全体の本塁打が史上最多となった。MLBは昨季から、重量を軽くすることで飛距離を抑える“低反発球”を公式球に採用。公式球の入れ替えが完了したとされる今季は「投高打低」の傾向がさらに強まり、事実、大谷の成績も昨季に比べると打者より投手の方が優位だ。

ハードルはイニング数

 メジャー歴代最多511勝を誇る名投手、サイ・ヤングの名を冠したCY賞は、全米野球記者協会の会員30人の投票で選ばれる、投手最高の栄誉だ。対象者が先発完投型に限定され、10完投、200イニング以上といった厳しい基準を目安に元先発投手が選考する、日本の「沢村賞」とは異なり、過去にはエリック・ガニエ(ドジャース)らクローザーも受賞している。

 投票歴がある記者は、「その年最高の投手を決めるわけだから、試合を支配していたかどうかという印象度は強く影響する。ジェイコブ・デグロム(メッツ)は18、19年シーズンに、それぞれ10、11勝でもCY賞を獲った。勝ち星はチーム力にも左右され、自身の力が及ばないことがあるため、さほど重視しない」とした上で、「現時点での大谷は賞にふさわしい出来が続いている」と断言する。

 となると、受賞のハードルは何か。

「昨年は約130投球回とイニング数が物足りなかったことで投票では1票も入らなかったように思う。二刀流は中6日と登板間隔を空けざるを得ないため、中4日中心の専門の投手よりどうしても登板数が少なくなる。1度の登板でいかにイニングを稼ぐか。三振狙いでは球数がかさむ。1球で打たせて取る投球をもっと取り入れ、規定投球回の162 イニングに届けば候補に入ってくるはず」(同)

 19年3月、イチローは東京ドームでの引退会見で大谷についてこう語った。

「1シーズンごとに、1シーズンは投手、次は打者として出て、その上でサイ・ヤング賞とホームラン王とか。20勝するシーズンがあって、その翌年は50本打ってMVP取ったら化け物ですよね」

 MVP獲得の翌年にCY賞、それも両年ともに二刀流をこなしながら――。投打どちらか一つに専念することが念頭にあったイチローの想像を遥かに超えるスケールで、大谷は新たな伝説を創ろうとしている。

津浦集(つうら・しゅう)
スポーツライター

デイリー新潮編集部

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