外務省「ロシアに不法占拠」と19年ぶりに明記 本当は「南千島」なのになぜ「北方領土」と言い出したのか

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ウクライナ侵攻でほくそ笑む?

「ウクライナ侵攻後」に戻ろう。

 欧米に同調した日本の経済制裁に反発したロシアは、領土交渉自体の中断を一方的に宣言した。プーチン大統領が権力を握る限り返還の可能性は絶望的だろうが、隣国に事実上の戦争を仕掛けたロシアに今後、何が起きるかはわからずチャンスがないとは言えない。実際、1991年にソ連が崩壊した後、エリツィン大統領の頃には返還のチャンスもあった。

「2000年頃は2島先行返還を主張した鈴木宗男氏(参院議員、元北海道開発庁長官)を支持していたけど、国賊のように言われて右翼が押しかけたりしたよ」と前述の足立氏。米国依存の強い小泉政権は「4島が国是」を復活させ、鈴木氏や彼のブレーンの佐藤優氏(元外務省職員・作家)は「国策捜査」で相次いで逮捕され葬られた。ところが安倍首相は禁忌だったはずの「2島先行返還論」で解決を模索した。プーチン大統領は「日ソ共同宣言」に立ち返る姿勢は見せたが、安倍氏は足元を見られて潰れた。

 母親が国後島出身の元北海道新聞記者で、同町の根室振興局でソ連軍の千島占領を調査してきた谷内紀夫氏は、皮肉交じりに「あそこまで日本が譲歩してもダメだとわかったことだけが安倍外交の成果でしょう」と話す。4島での「経済交流事業」に前のめりだった安倍元首相の対露交渉について、4月に北海道・羅臼町で会った国後島出身で元羅臼町長の脇紀美夫千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)理事長(81)は「元島民の財産権も漁業権も補償されていないのに我々の居住していた土地でロシアと共同事業とはいったいどういうことだったのか」と今も不信感を隠さない。

 プーチン大統領との親密度を強調、領土問題について「我々の世代で解決」と啖呵を切りながら何の果実も得られなかった安倍氏は今、同大統領のウクライナ侵攻で「あの男相手なら仕方がない、と国民は思ってくれているはず」とほくそ笑んでいるだろう。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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