匿名のネット誹謗中傷「改正プロバイダ責任制限法」で劇的に軽減される被害者の負担

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 ネット上での匿名の誹謗中傷が、後を絶たない。これまで被害者は、投稿をした人物を特定したくても、1年近く時間をかけて煩雑な手続きを踏まなければならなかった。だが、今年施行予定の「改正プロバイダ責任制限法」では、これまでの手続きが一気に簡略化される。法改正で被害救済は進むのか。「渥美坂井法律事務所弁護士法人 麹町オフィス」代表の渥美陽子弁護士に話を聞いた。【「コスプレ弁護士」の法律相談所】

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旭川のいじめ事件後に起きていた誹謗中傷

 昨年、北海道の旭川で、学校でいじめを受けていた女子中学生が、極寒の中、家出して凍死してしまうという痛ましい事件が起きました。事件は大きなニュースになりましたが、ウラでは新たな被害も生じていました。ツイッター上で何者かが、事件と無関係だった男子高校生がいじめに関与していたかのような書き込みをしたのです。男子高校生は投稿をした人物に名誉を毀損されたとして、プロバイダに対して投稿者の発信者情報を開示するよう求める訴えを、プロバイダの所在地を管轄する広島地裁に起こしました。

 4月25日、広島地裁は「原告がいじめに関与したことをうかがわせる証拠はない。名誉権への侵害は明らかで、開示を受けるべき正当な理由がある」として、プロバイダに投稿者の氏名・住所などの開示を命じました。

 ようやく男子高校生は、書き込んだ人物を突き止め、損害賠償請求訴訟を起こすことが可能となりました。これから本格的な戦いが始まるわけですが、ここに至るまでは大変な道のりだったと思われます。2つの仮処分と1つの訴訟という「3つの法手続き」を経なければならなかったからです。

3つの手続き

 この手続きを簡略化させるのが、昨年3月に制定され、今年10月までに施行予定の「改正プロバイダ責任制限法」です。改正法について説明する前に、まず、これまで被害者が強いられてきた3つの手続きについて説明します。

 ツイッターで誹謗中傷を受けたと仮定します。被害者はまず、コンテンツプロバイダであるツイッターに対して、投稿に使用されたIPアドレスやタイムスタンプ(投稿の日時に関する情報)の開示仮処分を裁判所に求める必要がありました。なぜこのような手続きを踏むかというと、ツイッター自身は投稿者の住所や氏名のような発信者を直接特定できる情報を有していないからです。

 発信者を直接特定できる情報を有しているのは、So-net、NTTコミュニケーションズなどといった通信業者(アクセスプロバイダ)です。ツイッターから開示されたIPアドレスやタイムスタンプをアクセスプロバイダに持っていくことで初めて、発信者の氏名・住所などが特定されるのです。アクセスプロバイダに対して、これらの情報の開示を求めるには、仮処分では難しく、最低でも数か月の期間を要する訴訟を起こす必要がありました。

 この訴訟と並行して、もう一つやらなければならない手続きがあります。それが、アクセスプロバイダに対し、訴訟が終了するまで発信者情報を消去しないよう求める仮処分の申立てです。アクセスプロバイダの通信ログは数か月から1年程度で消去されてしまうとされており、別途手を打っておく必要があったのです。

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