冬ドラマ 視聴率抜きで選んだベスト3 それぞれに敢えて難点もあげると――

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「ミステリと言う勿れ」(フジテレビ)

 ミステリーであってミステリーにとどまらない作品。タイトル通りだった。

 Episode1では主人公・久能整(菅田将暉)による薮鑑造警部補(遠藤憲一、60)への諫言が重かった。藪は自他ともに認める仕事の鬼で、家庭を顧みなかったが、3年前に妻子がひき逃げで死亡すると、復讐に燃える。自分では罪滅ぼしだと思い、ひき逃げ犯と思われた大学生を刺殺した。

 古典的な刑事ドラマなら、藪が真犯人だと分かっても同僚たちは同情し、「藪さん、手錠はいいから」などと言うかも知れない。だが、久能は藪を突き放す。藪を激しく責め立てた。

「楽しかったですか? 復讐は」「生きてる時に家族と関わることは、やりがいが見出せなかったのでしょう」

 刑事の仕事が忙しいことを理由に妻子をないがしろにしながら、復讐には時間が割けた矛盾を突いた。

 仕事と家族、どちらを大切にすべきか。どうバランスを採るべきなのか。この物語はそれを観る側に考えさせた。

 メッセージ性の強い物語は過去に数え切れないほどあったものの、この物語は問い掛けてくるだけ。答えは出さない。そこが新しい。

 極めてデリケートな問題にも踏み込んだ。Episode5では子供を虐待する親を焼き殺す放火殺人犯が登場した。カエルこと下戸陸太(岡山天音)と井原香音人(早乙女太一)である。

 2人は自分たちが正義の味方だと思っていた。子供を酷い目に遭わせている悪い親を葬るからだ。ところが、2人に親を焼き殺してもらった高校生・鷲見翼(今井悠貴)は激しく後悔していた。

「里親にもなじめなくて、結局また酷い目にあったよ。ほかにもいじめられて嫌な思いもいっぱいしたし。親がいないっていうハンデは大きいんだよ」(鷲見)

 ほかにも下戸と香音人に親を殺してもらった子供はいたものの、みんな苦しんでいた。
 かといって、もちろん子供を虐待する親を正当化した訳ではない。「行政が責任を持つべき」といった類の安易なメッセージもなかった。やはり観る側に児童虐待という社会問題について考えさせただけ。確かにみんなで考えないと解決しない難問だろう。

 このドラマも出演陣がいい。見方によっては、久能は不躾に物を言う嫌なヤツだが、菅田の演技によって温かみのある人物になっている。また、久能は人間離れした知識と洞察力の持ち主であるものの、菅田が演じると不自然ではなくなる。

 あえて難点を挙げると、どうして1話完結スタイルを避けたのか。Episode2のバスジャックの前編(第2話)は警官隊の犬堂邸への突入場面で終わったが、その後編(第3話)は警官隊が犬堂邸に向かう場面に戻っていた。

 ミステリードラマの本場である英国作品なら、1話完結にするか、はっきりと前後編に分ける。1時間では収まらないのなら2時間にする。あるいは連続ドラマにする。ほかの欧州作品も大抵はそう。

 視聴者を最優先して考えると、そうすべきだったのではないか。作品の輸出時もそのほうが有利であるはずだ。

「日曜劇場 DCU」(TBS)

 つくられ過ぎた刑事ドラマを避け、海上保安庁に「DCU」(潜水特殊捜査隊)というチームが組織されたことにして、捜査と逮捕に当たらせている。新しくて面白い。

 島国で河川や湖なども多い日本では水中に絡む事件が多い。これまでドラマにならなかったのが不思議なくらい。阿部寛(57)、吉川晃司(56)、市川実日子(43)らの出演陣もいい。

 やはり難点を挙げると、脚本が大味ではないか。例えばDCUメンバーの成合隆子(中村アン)が隊長の新名正義(阿部)の命令に背き、領海侵犯した上、命を落とした。日本の海保、警察、自衛隊は組織と自分が一体化しており、行きすぎた命令無視はリアリティを損なってしまう。

 米国ドラマなどを手掛ける世界的な番組制作会社・ケシェット・インターナショナルとの共同制作だからではないか。英国作品が人間の内面を描くのに対し、米国ドラマは力で悪を倒すヒーロー作品が圧倒的に多い。仲間が殉職し、その敵を討つパターンも大好きである。

 日曜劇場は連戦連勝だったのだから、メイド・イン・ジャパンで海外と勝負すべきだと思う。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

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