斎藤佑樹引退 ハンカチ王子ファンにおくる早稲田実業時代の忘れがたき3試合

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もうひとつの2日間にわたる死闘

 次は06年第78回春の選抜2回戦の関西(岡山)戦である。試合前は関西のプロ注目の好投手・ダース・ローマシュ匡(元・北海道日本ハム)と斎藤との投手戦が予想された。ところが関西は2年生の中村将貴を先発させる。試合は6-4と早実のリードで迎えた9回表にさらに1点追加。斎藤の出来からして、このまま試合終了かと思われた。

 ところが甲子園には“魔物”が潜んでいた。土壇場の9回裏、エラーと連続死球によって、斎藤は無死満塁のピンチを招いてしまったのだ。そして4番・安井一平に走者一掃の適時三塁打を打たれ、同点に追いつかれてしまう。なおも無死三塁と一打サヨナラのピンチ。この絶体絶命の場面で、早実サイドは連続敬遠で満塁策を選択。これが結果的に吉と出た。斎藤は渾身の投球で7番の東慎介を投ゴロ併殺打に、8番の小原徹也を三振に仕留め、ピンチを凌いだのである。斎藤が見せた“一世一代”の投球だった。

 試合はこの後、斎藤と途中からリリーフ登板したダースが力投し、両軍1点も奪えないまま、延長15回で引き分け再試合となった。この年の早実は、春夏両方で延長15回引き分け再試合を経験したことになる。

 注目の再試合は早実の先発が2年生の塚田晃平、関西は2日続けて中村の先発で始まった。試合は2-1と早実がリードして迎えた8回裏に、3回からリリーフしていた斎藤が痛恨の一撃を食らってしまう。エラーで出塁した走者を置いて関西の5番・下田将太が逆転2ランを放ったのだ。

 これで試合は決まったと思われた。だが、またも9回に甲子園の魔物が現れた。1死から早実の4番・後藤貴司が左前安打で出塁すると、続く5番・船橋悠の打球は右前へ。次の瞬間、関西のライト・熊代剛がこの打球を後逸し、打った船橋までもが生還。早実が4-3と再逆転に成功したのだ。

 その裏、このままでは終われない関西は2死満塁と一打サヨナラのチャンスを作る。バッターは前日の9回裏に起死回生の同点三塁打を放っている4番・安井。関西にとってはこれ以上ない場面だったが、ここで斎藤が最後の力を振り絞り、安井を捕邪飛に。試合終了のサイレンと同時に降り出した季節外れの雪が2日間の激闘の幕を引いたのだった。

 2日間で斎藤は22回を投げ、被安打19、16奪三振、与四死球11、失点10、自責点8という熱投を披露した。ここから約5カ月後の夏、早実は駒苫と高校野球史に残る名勝負を繰り広げることとなるが、この春の延長15回引き分け再試合の経験が、もしかしたらあの死闘に活かされていたのかもしれない。

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