「列車が途中で立ち往生したら…」乗車前の準備は? 停電した車内では? 脱出までの時間は?

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トイレ、空調対策と「希望の光」

 以上を踏まえ、乗客側で何か自衛策はないか考えてみた。残念ながら、自分が乗っている列車が駅と駅との間で立ち往生するかどうかは運でしかない。したがって、だれもが車内に閉じ込められると予想しておく必要がある。

 ささやかな対策として、まずトイレは乗車前に済ませておこう。そして、もしものときのために軽食や飲み物を携えておいたほうがよい。

 山手線のような通勤電車では着席できる人のほうが少ないので、列車が立ち往生している間、ずっと立ち続ける羽目に陥る。理想を言えばキャンプ用の小さないすを持っているとよいのだが、さすがに重い。防災用品のなかに携帯可能な紙製のいすがあるので、こうしたものを用意しておくとよさそうだ。とはいえ、ラッシュ時のような混雑状況では立ち続けるしかない。

 車内が停電したら窓を開けよう。車両には非常用電源として蓄電池を備えているが、空調装置や換気装置を動かせるほどの能力はない。したがって、停電と同時にすぐに窓を開け、車内が息苦しくならないように自衛しよう。あとは夏ならば扇子や小さなうちわ、冬ならば携帯カイロを持っていれば暑さ寒さを何とかしのげそうだ。

 降車誘導を待たずに列車を降りたくなるが、言うまでもなく危険なのでやめてほしい。もちろん車内で火災が起きたというときは注意しながら避難すべきではある。けれども、列車に乗っていて火災事故に遭遇する確率は極めて低く、国の最新の統計を見ると2018(平成30)年度に起きた件数は1件だけであった。速報値を見ても、国内ではこの1件以降、車両での火災事故は起きていない。

 駅と駅との間に立ち往生すると言っても、事故や故障で車両が自走不能であるとか、線路が破壊されたというケースは実はあまりない。そうしたなかで今回のような電力のトラブルにまつわる停電は比較的多く、何とかならないのかと思うであろう。

 そうしたときに役に立つと期待されているのは、車両に搭載される非常走行用のバッテリーである。リチウムイオン電池の進化により、停電によって駅と駅との間で停止したとしても、最寄り駅までは何とか走って行ける能力をもつ。近年登場した私鉄や地下鉄の電車の一部、それに東海道新幹線の新車は非常走行用バッテリーを搭載している。JR東日本も2020(令和2)年12月に横須賀・総武快速線で営業を開始したE235系という新しい電車に非常走行用のバッテリーを搭載したという。

 いまのところ、非常走行用のバッテリーを備えた車両はごくわずかだ。高性能なバッテリーがさらに小型、軽量となれば、既存の車両にも搭載できるようになる。そうすれば、停電で停車した列車に長時間閉じ込められるという話は過去のものとなるであろう。

梅原淳
1965(昭和40)年生まれ。三井銀行(現在の三井住友銀行)、月刊「鉄道ファン」編集部などを経て、2000(平成12)年に鉄道ジャーナリストとしての活動を開始する。著書に『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)ほか多数。新聞、テレビ、ラジオなどで鉄道に関する解説、コメントも行い、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談室」では鉄道部門の回答者を務める。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月4日掲載

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