安倍前首相の音頭で「日の丸半導体」に数兆円投入? お寒い日本の現状を危ぶむ声

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戦後最大の負債で破綻

 今、米国と中国の覇権争いは、「半導体産業」でも激しさを増している。半導体は、自動車メーカーやデジタル産業をはじめとして、私たちの身の周りの様々なものに不可欠だ。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって、半導体は世界的にも需要が逼迫しており、先端製品では発注から納品まで1年もの期間を要するものが出ている。

「米中の対立が激化すれば、半導体のサプライチェーン(供給網)の大幅な見直しが必要になります。そこで日本政府は、経済と安全保障の両面でもはや“戦略物資”としての様相を帯びてきた半導体の確保を成長戦略の柱に位置付けました。今まさに、国内と(米国側)同盟国を意識した製造体制を強化しなければならないときだと思います」

 こう訴えるのは、経済産業省幹部だ。日本はこの20年間、日本製であることがブランド化するようにと、「日の丸」を掲げた半導体振興策を行ってきたが、十分に目的を達成できていない。例えば、日本電気(NEC)と日立製作所の記憶素子半導体事業を統合したエルピーダメモリは、2008年のリーマン・ショック後の円高進展のあおりを受け、経営が悪化。日本政策投資銀行の公的支援を受けたが、日本の製造業では戦後最大となる約4480億円の負債を抱えて、12年に会社更生法を申請し経営破綻した。公的支援のうち、約280億円がそのまま国民負担となった。

「世界の半導体は、製造に特化したTSMC(台湾積体電路製造)、設計に特化した英アーム社などが一歩先んじています。両社とも最先端技術・人材を惜しみなく注ぎ込み、市場シェアの大半を占めているので、最先端製品を製造、開発する能力を失った日本が太刀打ちするのは厳しい。今回の動きはまったく現状を把握できていないと言わざるを得ません」(有力コンサルティング会社幹部)

“台湾有事”となれば……

 米国では、トランプ前政権から対中強硬姿勢をバイデン政権がそのまま引き継いだ。ジョー・バイデン大統領は、世界的な半導体不足の中で、中国の半導体産業が急速に影響力を強める事態を警戒し、4月下旬、「米国が半導体でも覇権を握る」と表明した。あらゆるデジタル製品の頭脳となるロジック半導体の製造、開発などに向け、5年間で520億ドルを投資するという。EUや韓国なども中国勢の勢力拡大に危機感を持ち、EUや韓国国内の半導体産業に対し、日本円にして数兆~十数兆円規模の支援策を打ち出している。

 一方、中国も対抗するように巨額の補助金で最先端の国産ロジック半導体産業を育成する計画を進めており、中国の半導体生産シェアは2030年に世界最大になるといった予測もある。まさに、「半導体が米中対立の最前線」(外交筋)となっているのだ。

「今年に入って、欧米などが半導体調達強化を加速させたのは、世界生産の4分の3の生産を占める東アジアで“台湾有事”の懸念が高まっているからです。米メディアの報道では、米国防総省の軍事シミュレーションで、中国が台湾に侵攻し、それに対抗して米軍が介入した場合、中国軍が制空権と制海権を確保する可能性が高いという結果が複数回、導き出されたと言います。つまり台湾で有事が起きれば、そこに拠点を置くTSMCの製品供給が致命的打撃を受けることになる。米政府の危機感が波及したかのように、霞が関でも台湾有事を視野に入れた半導体、エネルギー政策の議論が加速した感があります」(前出経産省幹部)

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