ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」で味わう、モヤッとした感情を明確に言語化してくれる快感

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珠玉の名言をさらっと吐く

 1ミリの未練もなく、次の恋を探すとわ子が、3人の元夫の恋模様をどう思うのか。肩の荷が下りた、溜飲が下がった、とっとと次へ行け、と思うかどうか。

 自分に向いていたものが他に向いたとき、いくらドライなとわ子とはいえ、心がざわつくのではないか。嫉妬心がゼロ、とは思えないんだよね。その感情がどんな形で現れるのか、松たか子がどう表現するのか、ぜひ見てみたいと思った。

 この恋模様に胸キュンはしないが、セリフの端々にいちいち脳がキュンとしている。「それ、めっちゃわかるわぁ~」案件が多いこと多いこと。

「離婚の回数は自分に嘘をつくのをやめた回数」とか「挨拶が大事っていう人、挨拶って漢字で書けるかなぁ」とか。私も複数回離婚したのでなんだか救われたし、「挨拶」って何度書いても漢字を忘れちゃうんだよなあとずっと思っていたので(髑髏は書けるのに、挨拶がどうしても覚えられないんだよ)。

 また、「面倒くさいは好きと嫌いの間にあって、好きに近いほう」とか「言ってないことはわかった気になるくせに、言ったことはわからないフリをするよね」とか。

 夫婦の間にある小さな溝とか傷とか、妥協という名のパテでは埋められないものがあるんだよなぁとしみじみ。

 日頃、脳内でふんわりと感じているけれど、言葉にしない案件を、登場人物たちが明確に言語化してくれる快感たるや! 一言も聞き逃すまじ、と構えて視聴するので、まあ、疲れる。

 この疲れがイヤな人も多いせいか、視聴率がふるわない。低くてもいい。私は満足。

 そうそう、もうふたり、触れておかねば。珠玉の名言をさらっと吐く、とわ子の親友・綿来かごめを演じる市川実日子。彼女のそっけなさと図々しさは、まったくイヤじゃない。

 タダメシ食いに来ようが、皮肉を言いに来ようが、ウェルカムだなぁ。心に余裕と余白がある人間がそばにいてくれることって大事。

 そして、初めは誰だかわからなかったナレーション。声優かと思っていたら、伊藤沙莉だった! コミカルだけど調子に乗らず、妙な媚びや、変な“しな”、わざとらしい抑揚もつけていない。淡々と乾いた声が松たか子の心情解説にぴったり。

 今期ドラマは、各局本当に面白い作品が目白押しなんだけど、最も脳が心地よく疲労する秀作がこれかな。火曜日夜は、豆大福など何か甘いモノを食べながら、視聴するとちょうどよい。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月27日掲載

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