大江麻理子「WBS」が「報ステ」と真っ向勝負 テレ東の“狙い”がハマる可能性大

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 テレビ東京の経済ニュース「ワールドビジネスサテライト(WBS)」の放送開始時刻が3月29日から1時間繰り上がり、平日の午後10時からになる(金曜日は同11時のまま)。テレ東の真の狙いは何か。それを読み解く。

「(1時間の繰り上げによって)政治家や企業経営者など、いろいろな方のご出演が可能になると思います。ニュースの当事者の方をお招きし、生の声をお届けできるのではないかと」

 テレ東の石川一郞社長(63)はWBSの放送枠移動をこう説明した。午後10時台にすることで内容の充実化が図れるというわけである。

 石川社長は口にしなかったが、収入もアップする。同11時台と、花形であるプライム帯(同7時から同11時)に属する同10時台では、タイムCM(番組スポンサーのCM)の料金設定が違うからだ。3月29日以降のWBSの収入は、最低でもこれまでより2、3割増になることが見込まれている。

 商品は価格を上げると大抵は売れなくなる。けれどWBSのCMは料金が上がってもスポンサーが離れない。企業側にとって魅力ある番組だからである。

 なぜ、企業がWBSに惹かれるかというと、視聴者に富裕層やエリートサラリーマンが多いとされているためだ。また、間違っても芸能スキャンダルなどを扱わないので、企業や商品のイメージが落ちる心配もない。

 今のWBSのスポンサーは大和証券グループなどだが、この番組がスポンサー探しに困ったことはない。逆にスポンサー希望の企業が多すぎて順番待ちになったこともある。

「ニュースはメインの視聴者が財布のヒモが固い中高年層以上。一方でバラエティは金を使う若者がよく観ているから、企業はバラエティのスポンサーになりたがると思い込んでいる人もいるようですが、それは間違い。スポンサーは商品に合った番組を選ぶ。ニュースのスポンサーを希望する企業は昔も今も多い」(編成も営業も経験した元民放幹部)

 高額商品や金融商品を宣伝したり、企業のイメージCMを流したりするなら、ニュースのほうが合うのだ。WBSのように富裕層やエリートビジネスマンが視聴者に多い番組だと、より良い。また、WBSは投資意欲の高い視聴者が多いので、大和証券グループのような投資関連企業はスポンサーになることを強く望む。

報ステとの戦い

「報道ステーション」(テレビ朝日)と同時間帯の戦いになる。WBSは敗れ去るのではないかと危惧をする向きもあるが、心配無用だろう。

 どちらかが敗れるのでなく、選択肢が増えるので、スケールメリットが生まれるはずだ。今の「報ステ」の世帯視聴率は約15%だが、3月29日以降はこれを両番組で食い合うのではなく、両番組を合わせた世帯視聴率はおそらく15%より上昇する。振り返ると、朝のワイドショーなども番組が増えるほど全体の視聴率が伸びた。

 3月29日以降はこれまで同10時台にはテレビを消していた中高年層以上が画面の前に戻って来る可能性が高い。なにしろ、現在の同10時台は中高年層以上が観る番組がないに等しいのだ。日本テレビ、TBS、フジテレビが若年層向けの連続ドラマかバラエティばかりなのはご存じの通りである。

 テレ東の石川社長はこうも言っている。「我々の元には『放送時間を早めて欲しい』という声も届いていました」「(午後11時台には)就寝してしまう方が約半数いらっしゃる」。そもそも夜の大型ニュース番組は同10時台のほうが向いているのではないか。ビジネスマンは朝が早いのだから。

 実は33年前のTBSもそう考えた。1985年に始まった久米宏氏(76)がMCの「ニュースステーション」(テレ朝)が成功したため、同10時台こそニュースの時間と考え、87年に同じ放送枠で「JNNニュース22プライムタイム」をスタートさせた。MCには森本毅郎氏(81)を起用した。

 けれど世帯視聴率が伸びず、1年で終わった。最大の敗因は「打倒『Nステ』」をスローガンにしたことだった。違ったカラーのニュースにして、共存共栄を図ったり、連ドラやバラエティから視聴者を奪ったりすべきだった。

 テレ東は共存共栄がベストと分かっているようで、「報ステ」を敵視する発言は一切ない。もともとWBSと「報ステ」は、親会社の日本経済新聞と朝日新聞のような関係だから、棲み分けが可能だと踏んでいるのだろう。実際、両紙を併読する人も多い。

 3月29日以降、「同10時台はニュースの時間帯」という意識が浸透する可能性がある。なので、本当に危機感を抱くべきなのは「news zero」(日本テレビ)「news23」など同11時台のニュースにほかならない。1日を振り返るニュースを2度も3度も見る視聴者は少ない。同11時台のニュースが空洞化へと進む可能性がある。

「『Nステ』より取材力で劣るのでは」という声もあるが、そんなことはない。テレ東の報道局には驚くほど力がある。

 例えば2年前、テレ東報道局の報道番組センターが制作する「ガイアの夜明け」は新聞も他局も騒然となる超ド級のスクープを放った。

 各新聞、各局にとって大口スポンサーである大手不動産「レオパレス」の疑惑を徹底追及した。これでもか、これでもか、と繰り返し報じた。

 サブリースを巡る契約トラブルから施工不備まで。余すところなく糾弾した。公益や視聴者の利益を考えると当然なのだが、他局が忖度せずに出来たかどうかは疑問だ。

 やはりスポンサーである老舗和菓子店と反社会勢力とのつながりも暴いた。こんなスクープ、他局のニュースではまず観られない。取材力がある上、腹が据わっているのである。

 日経は広告主に忖度しないことで有名。テレ東も同じなのだ。優秀な記者も揃っている。なにしろ、テレビ局の中で学生の就職先人気は1位なのである(ワークス・ジャパン調べ。大学・大学院の今年3月卒業、修了生)。

 やはり他局をアッと言わせたのが報道局による「『桜を見る会』を全部見る」。2019年11月、安倍晋三前首相(66)と同会をめぐる問題が浮上すると、テレ東のユーチュープに同年4月の会の模様をありったけアップした。約1時間半ノーカットで見せた。最高権力者に対しても忖度がない。

 石川社長も日経で政治畑を歩んだ。もともと日経は政治報道も強く、テレ東入りするトップには政治畑の人が多い。

 そんなこともあり、報道局は選挙特番にも強い。長年、つまらない番組の代名詞だったが、流れを変えた。2010年の参院選から池上彰氏(70)をMCに起用し、「池上彰の選挙ライブ」を放送している。

 池上氏は政治家に容赦ない質問や指摘を浴びせる。あまりに痛快なので「池上無双」と呼ばれているのはご存じの通り。テレ東の選挙特番の視聴率はトップだ。テレ東の報道は取材力も番組制作力もぜんぜん弱くないのである。

 開局からずっと視聴率争いで万年Bクラスだったテレ朝を飛躍させた番組は「Nステ」にほかならない。この番組が当たったので、プライムタイム全体の編成がしやすくなり、全体の視聴率も底上げされた。局のブランドイメージも著しく向上した。

 テレ東も同じ。同10時台になるとWBSは収入が増える。午後7時台から同9時台の編成もやりやすくなる。例えば、同7時から「バス旅」を3時間放送すれば、その夜の番組はもう要らないのである。

 今後、テレ東の大躍進が見られるかもしれない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年3月29日掲載

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