「かまいたち」を島根県が応援 地元テレビのレギュラー番組がキー局で異例の放送

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 山内健司(40)と濱家隆一(37)のお笑いコンビ「かまいたち」が、結成17年目にしてお笑い界のトップ集団入りを果たそうとしている。山内の地元・島根県から強力な応援を受けているのも強みだ。

 最近のかまいたちは破竹の勢い。レギュラー番組が9本あるが、その全てがこの1年以内に始まり、うち3本は今年1月の新番組。人気が一気にヒートアップしている。

 レギュラー番組の1つである「かまいたちの掟」は昨年10月にスタート。「ロケ最強芸人」の異名を持つ2人が、山陰地方の名所や噂の人などを訪ねながら、ゆるいフリートークを繰り広げる。

「そんな番組、知らない」と首を傾げる向きもあるだろう。それもそのはず。山内の故郷である島根県松江市に本社を置き、同県と鳥取県をエリアとするローカル局・山陰中央テレビ(フジテレビ系列)の番組なのだ。山内を応援する意味もあり、企画された。

 山陰中央テレビの番組をフジが放送することは通常ない。だが、なにしろ人気の2人なので、1月23日深夜には1夜限定ながら、フジも放送した。大阪などの準キー局以外の番組を東京のキー局が放送するのは極めて異例のことだった。

 ティーバーでも見られる。この番組をチャンネル登録している人は5万人以上。TBS「アッコにおまかせ!」ですら登録者数は約3000人なのだから、かまいたちの人気の高さがうかがえる。

 かまいたちは「島根林業PR大使」や「松江観光大使」も委嘱されている。ここで思い出すのはサンドウィッチマンだ。サンドの伊達みきお(46)と富澤たけし(46)も地元・宮城県から熱烈に愛され、「みやぎ絆大使」「仙台市スペイン友好大使」などを務めている。

 サンドもお笑い界のトップ集団入りする前の2008年、仙台市に本社を置くTBC(TBS系列)のローカル番組「サンドのぼんやり~ぬTV」のメーンキャスターに据えられた。この仕事は超売れっ子になった現在も続けている。

 地元が強力に応援してくれるお笑い芸人は、それが基礎票になるのが強み。励みにもなるのは言うまでもない。

 なぜ、島根県が山内への応援を惜しまないかというと、同県は故竹下登元首相ら大物政治家、芦田昭充・元商船三井会長(77)ら大物財界人、歌手の竹内まりや(65)らを輩出しながら、お笑い界の大スターはまだいないせいもあるだろう。ちなみに濱家はお笑いの本場・大阪の出身だ。

 山内の父親は地元で小学校の校長をしていた。本人も県立松江東高を経て国立奈良教育大を卒業。在学中、中学社会と高校日本史の教員免許を取り、さらに図書館司書と博物館学芸員の資格を得たというから、在学中は遊ぶ間もないくらい講義と課題で忙しかったはずだ。

 それでも教師にならなかった理由を、山内は教育実習先の中学校と高校で生徒から人望がなかったためだと語っている。

「本当、びっくりしたんですけど、生徒から全然慕われなくて」(昨年12月19日放送のTBS「人生最高レストラン」)

 教育実習の最終日、ほかの実習生は生徒から渡された花束や記念の色紙を抱えていたが、山内だけが手ぶら。この時、「向いていない」(同)と悟ったという。

 一方の濱家は苦労人だ。本人が「櫻井・有吉THE夜会」の2017年11月16日放送で明かしたところによると、幼いころに両親が離婚。父親が借金を残したため、母と姉と3人で生活費を切り詰めた暮らしを余儀なくされた。

 その後、母親が再婚したことで厳しい暮らしから解放されたため、新たな父親に感謝。2017年のキングオブコントで優勝した際には賞金から50万円ずつを父母に手渡した。

 母校は大阪府立茨木東高。在校中は野球部に所属していたが、エースにはなれず、控え投手だった。それでも努力家で人望があったため、周囲から推されてキャプテンを務めた。

 頭は良いがヤバさが見え隠れる山内と、どんな時も筋を通そうとする濱家。2人のデビュー前の歩みは現在の芸風と重なり合うようだ。

素顔も面白い

 2人は大阪の吉本総合芸能学院(NSC)に2003年に入学した同期(26期)。翌2004年にコンビを組んだ。ピンでやっていた山内に対し、ほかの生徒とコンビを組んでいた濱家が声をかけた。山内は意外や人見知りらしい。

 2人の漫才の面白さの1つは山内のサイコパス的な嘘。自分の非や過ちを決して認めず、すべて濱家のせいにする。そんな時の山内の目は血走り、狂気すら感じさせる。

 名作「UFJ」の場合、こうだ。

山内 僕、この間UFJに行ったときにね、ちょっと恥ずかしい経験をしたんですよ。

濱家 UFJで恥ずかしい経験したの?

山内 そう。その日、ハロウィンナイトってイベントやってたんですけど、それを知らなくて、ゾンビが出てきた時に、1人だけホンマにパニックになっちゃったんです。

濱家 そらUSJやろ。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン。UFJでゾンビ出てきたら、そりゃパニックになるやろうけど。

山内 UFJは銀行やもんな。

 ここから山内はシラッとした顔で、言い間違えたのは濱家だと言い張る。濱家が「おまえやん」と否定しようが、「え、どう乗り切る気?」と、とぼける。

 山内は漫才やコント中に嘘を吐く時、全く悪びれない。それどころか無実の濱家に向かって「クスリやってる?」などと言い始める。黒いものを白にしようと全力を挙げる。

 一方、濱家は自分の正しさを証明しようとするのだが、なにせ相手は漫才中とコント中にはサイコパスに変身する山内。簡単にはいかない。戸惑い、苛立ち、やがて自分の正しさを疑い始めることもある。

 濱家が普通の人を演じているからこそ山内の異常性が際立ち、面白い。山内と濱家以外の芸人が同じことをやってもウケないだろう。ちなみにネタは全て山内が考えている。

 では、仕事を離れた素顔の山内はどんな人物かというと、やはり個性的。2月23日放送の「ノンストップ」(フジ)で本人が明かしたところによると、現在5匹の猫を飼っているが、飼い始めたきっかけは昔の彼女が望んだから。

 だが、金がなかったため、吉本興業に「猫を飼いたいのでお金貸してください」と頼み、25万円借りた。ペットを飼うために所属先に金を借りに行ったことに、ほかの出演陣は驚いていた。

 一方の濱家は漫才とコントでは普通の人を演じているが、素顔は豪傑。松江市内で行われた前出「かまいたちの掟」の初回ロケに遅刻。しかも約4時間。前夜の深酒が祟ったらしい。

 ただし、山内の芸風のように開き直ることはなく、盛大な土下座をして詫びた。

 売れっ子2人は素顔も面白い。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年3月1日掲載

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