トランプ「前大統領」に翻弄されることになる「ペンス副大統領」の政治的将来

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 米国では2週間あまりでトランプ共和党政権からバイデン民主党政権への政権交代が行われることになり、政治力学が大きく変化しようとしている。

 2020年大統領選挙結果を巡り、民主党陣営による大規模な不正投票が行われたとして選挙結果を依然受け入れていないドナルド・トランプ大統領は、1月20日に予定されているジョー・バイデン前副大統領の大統領就任式に欠席する可能性が浮上している。

 大統領選挙後に離任を前にした現職大統領が次期大統領をホワイトハウスに招いて円滑な政権移行について協議を行っていないこと自体、極めて異例の展開である。さらに、トランプ大統領は大統領就任式を欠席するだけではなく、当日は住民登録をしているフロリダ州で政治集会を開催し、2024年大統領選挙への出馬表明を行うのではないかとも憶測されている。

「トランプ」の陰に隠れる「ペンス」

 このように、大統領離任後のトランプ氏の政治活動については様々な議論が展開されているが、トランプ大統領の陰に隠れているのが、トランプ大統領を副大統領としてまるでスフィンクスのように表情を変えることなく忠誠を尽くしつつ4年間支えてきたマイク・ペンス氏である。

 トランプ政権の任期満了を目前にして、同政権の「ホワイトハウス新型コロナウイルス対策タスクフォース」の部会長を務めているペンス副大統領は、感染拡大に歯止めがかからない状況に引き続き対応しており、また、1月5日投票のジョージア州選出上院議員選挙の2つの決選投票での共和党現職の勝利のためにジョージア州入りを繰り返すなど、精力的に政治日程をこなしている。

重要性を増す副大統領経験者

 過去半世紀近くを振り返ると、政権担当時に重要な責務を担った副大統領経験者が大統領を目指す事例が増大している。

 アイゼンハワー共和党政権で8年間副大統領職にあったリチャード・ニクソン氏は、1960年大統領選挙でのジョン・F.ケネディ民主党候補との対決での敗北を乗り越え、1968年に次期大統領に当選した。

 1974年には、ウォーターゲート事件で大統領辞任に追い込まれたニクソン大統領の後任として、ジェラルド・フォード副大統領(共和党)が選挙の洗礼を受けることなく大統領に昇格している。

 1984年には、ウォルター・モンデール前副大統領が、また、2000年にはアル・ゴア副大統領が、大統領選挙ではいずれも敗北したが、民主党大統領候補指名を獲得している。

 1989年には、レーガン共和党政権で副大統領職に2期8年在職していたジョージ・H.W.ブッシュ氏が大統領に就任し、バイデン前副大統領も、トランプ政権の4年間を経て大統領に就任することになる。

 このように、副大統領経験者が大統領職の座を目指す点で優位を確立しつつあることが近年の米国政治史を振り返っても明らかになっている。

保守派としての政治資産

 ペンス氏は下院議員を2001年から6期12年務めており、2009年から2011年には下院共和党会議の議長という要職にも選出されている。

 2012年11月に地元中西部インディアナ州知事選挙に当選し、副大統領に就任する前の2013年1月から2017年1月までの1期4年知事を務め、人工妊娠中絶や同性婚に反対し続けている共和党保守派の政治家である。

 とりわけ、共和党の強固な支持基盤の1つである福音派キリスト教徒(エバンジェリカル)の間での信頼は厚く、共和党大統領候補指名を獲得したトランプ氏が自らの副大統領候補にペンス氏を指名したのも、宗教右派勢力からの支持を固めることが目的であった。

 2016年7月にオハイオ州クリーブランドで開催された共和党全国党大会での副大統領候補指名受諾演説でペンス氏は、

「私はキリスト教徒、保守派、共和党員、その順番である(I’m a Christian, a conservative and a Republican, in that order.)」

 と自らを定義していた。

 経済政策や税制などについても共和党保守派が訴えている「小さな政府」の実現を支持しており、下院議員、知事、副大統領という華麗な政治経歴は、ペンス氏が大統領職を目指す場合、共和党系有権者に対して支持を訴える点で非常に重要な政治資産となる。

2024年の党内ライバル

 トランプ大統領が2024年共和党大統領候補指名獲得を見送った場合、ペンス副大統領とともに同党の大統領候補指名獲得を争う可能性がある顔ぶれとして、すでに5名の名前が取り沙汰されている。

 具体的には、昨秋の大統領選挙と同時に実施されたカンザス州選出上院議員選挙の出馬を見送り、トランプ大統領の任期満了までの3年弱国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏。

 サウスカロライナ州知事を経て、トランプ大統領により国連大使に任命されたインド系女性のニッキ・ヘイリー氏。

 2016年共和党大統領候補指名獲得をトランプ氏とともに争ったテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)。

 トランプ大統領の支援を受けて2018年中間選挙で初当選を果たした「親トランプ派」のジョシュ・ハウリー上院議員(ミズーリ州選出)。

 そして、イラク戦争従軍経験のある保守派のトム・コットン上院議員(アーカンソー州選出)らの名前が浮上している。

トランプ「再出馬」次第で

 トランプ大統領が2024年共和党大統領候補指名獲得争いへの出馬を見送った場合、ペンス副大統領は「フロントランナー」に一挙に躍り出る可能性がある。

 だが、トランプ大統領が捲土重来を目指して出馬した場合、ペンス副大統領の政治的将来は大きな制約を受け、封じ込められかねない展開となる可能性がある。

 トランプ大統領は現在74歳であり、2024年大統領選挙投票日には78歳となっており、仮に当選した場合、米国史上最高齢での大統領就任となるバイデン氏と同年齢での就任となる。

 また、大統領職への返り咲きという観点では、1888年大統領選挙で再選に失敗し、4年後に再び当選したグロバー・クリーブランド大統領(民主党)以来となる。

 こうした観点からも、トランプ大統領が2024年にホワイトハウスに3度目の挑戦をすることは決して不可能とは言えない。

 さらに、トランプ政権下で共和党の「トランプ化」が進行しており、トランプ大統領は各種世論調査結果で共和党支持者の約9割の支持を受けており、再選に失敗した大統領選挙でも7400万票を上回る歴史的得票をしている。実際に3度目のホワイトハウス挑戦を表明するか否かにかかわらず、いずれにしても大統領離任後も引き続き共和党に対して一定の影響力を行使し続ける存在となることは確かである。

1期限りの可能性高いバイデン政権

 一方、バイデン氏は、米国政治史上最高齢での大統領就任となり、仮に2024年大統領選挙で再選を果たして2期8年大統領に在任した場合、2029年1月に86歳で離任することになる。大統領職の激務に86歳まで耐えることは非常に困難であり、実際、バイデン氏自身も、自らの役割について次世代への橋渡し役になると示唆している。

 すなわち、バイデン政権は1期限りとなる可能性が高く、トランプ政権以前の近年のクリントン政権やブッシュ43代政権、オバマ政権のような2期8年の任期となる見方をすることはできない。

 そうなると、民主党政治家であれ共和党政治家であれ、4年後にはバイデン氏とは別の政治家がホワイトハウス入りする可能性が高い。

 いずれにしろ、ペンス副大統領のホワイトハウスへの道筋は、「トランプ前大統領」という存在に翻弄されることになるであろう。

 昨秋の大統領選挙後、ペンス副大統領はすべての票が合法的に集計されなければならないと訴える一方で、トランプ大統領やトランプ陣営が訴えている民主党による大規模な不正投票が行われていたとの議論に完全には与してはおらず、非常に慎重かつ微妙なバランスを図りつつ事態の推移を見守っているように映る。

 こうしたペンス副大統領の立場も、トランプ支持者の離反を回避しながら2024年大統領選挙でのホワイトハウス奪還を目指そうしている動きではないかと筆者は受け止めている。

 2年以内に行われる2022年中間選挙では、昨秋の大統領選挙で敗北を喫した共和党の支持者は熱心に投票することが予想されるが、共和党候補の選挙キャンペーンを全米各地で支援するためにペンス副大統領は精力的に遊説し、2024年大統領選挙に向けた踏み石にしつつ政治的影響力を維持、増大させることが予想される。

足立正彦
住友商事グローバルリサーチ株式会社シニアアナリスト。1965年生まれ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より、住友商事グローバルリサーチにて、シニアアナリストとして米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当し、17年10月から米州住友商事ワシントン事務所に勤務、20年4月に帰国して現職。

Foresight 2021年1月5日掲載

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