辛口コラムニストが選ぶ2020年連ドラ「ワースト3」、“医療”と“テレ朝深夜”に烙印

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 年末恒例、コラムニストの林操氏に今年のベスト&ワーストドラマを選んでいただく企画である。当初、ご本人は「今年はコロナ禍で制作現場は大変だったから、たとえつまらないドラマであっても強くは責められない」とノリ気ではなかった。ところがどうだ、フタを開けたら、やっぱり辛口が――。まずはワースト編から。

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アナ:この1年間に放送されたTVドラマ、そのベスト&ワースト3を発表する時季がやってきました。2020年も選出は非国民生活センター・TV主席研究員の林操さんです。

林:いや、今回はキツかったなぁ。ホントだったらこの企画は中止にしてもらいたかったくらいだもの。

アナ:やっぱり新型コロナウイルス問題のせいですか。

林:そういうことになるね。コロナの影響で制作の現場じゃカネも人も時間も縛りがキツくなった結果なんだろうなぁ、褒めるに足る作品を見つけ出すのが例年以上に難しかった一方で、普段なら容赦なく貶す出来のドラマが量産されてても、現場の大変さを思うと叩く気にならないのよ。“連ドラ界"はもう何年も綱渡りを続けてきてたけれど、ヨロヨロなんとか渡ってきた綱が、ついにコロナでプツンと切れたという印象。

アナ:確かに連ドラだけでなくTV番組全体がコロナで大きな制約を受けましたからね。特にドラマは4~6月期を中心に新作の制作や放送が難しくなって、プライム帯(夜7~11時)に旧作が穴埋めとして再放送されるほどでした。

林:「なんで今、このドラマを再放送すんの?」と疑問を持たざるをえないセレクションがけっこうあって、ギョーカイの駄目さ・面倒臭さが炙り出された形になっちゃったりさ。

アナ:ドラマの再放送は放送枠や権利関係、スポンサーや芸能事務所といった縛りがきついと聞きますからね。

林:そうそう。「なぜ今これ?」物件の代表格だったのはフジ(関テレ制作)の「素敵な選TAXI」で、初回視聴率が5・7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯)。あれしか選べなかったフジはなんかもう、全身ガンジガラメの緊縛マゾ状態だよね。一方で、わりと最近のヒット作の「逃げるは恥だが役に立つ」とか、コロナ禍だからこそ切実に受け止められちゃう非日常医療モノの「JIN―仁―」とかを流せたTBSはさすがだった。

アナ:新作のほうを見渡しても、今年はTBSの好調が目に付きましたね。1月期の「恋はつづくよどこまでも」と「テセウスの船」、4月期の「半沢直樹」と「私の家政夫ナギサさん」などなど。

林:「半沢」と「ナギサさん」はどっちも本来は4月期向けだったのがコロナで7月期にズレ込んだ作品で、新作への飢餓が高まった時期に放送となったのは、送り出す側にとってラッキーだったよね。どちらも水準以上の出来だったから、受け止める側の視聴者にとってもラッキーだったし。

アナ:おお、「~ナギサさん」はともかく、「半沢直樹」を「社畜『水戸黄門』」呼ばわりしてきた林さんが続篇を水準以上の出来と褒めるのは意外ですが……さぁ、そのあたりも今年のベスト3に入ってきたりするのでしょうか。あるいは、ひねくれ者の林さんだけに、今だけ持ち上げておいてワーストに入れて落とすのでしょうか。コロナの年の連ドラベスト&ワースト3、さっそく発表をお願いします!

林:了解。では、2020年はワーストから。まずワースト第3位は……

●1月期・日テレ系・土曜10時「トップナイフ」
●1月期・TBS系・金曜10時「病室で念仏を唱えないでください」
●4月期・フジ系・木曜10時「アンサング・シンデレラ~病院薬剤師の処方箋〜」

……です。

アナ:おっ。今回はワースト第3位が3作品ですか。2019年に一挙7本も挙げられたときは驚きましたが、今回の3本はなぜ?

林:これ、全部医療モノなのよ。ドラマとしての出来はそれぞれに良し悪しはあるとして、まとめて今年のワーストにブチ込んだ理由は、いまユルいフィクションで医療の世界なんか見せられたくないから。それがすべてです。

アナ:なるほど。林さん、コロナ危機が起きるよりずっと前から医療ドラマ、それも「テキトーな医療モノ」が多すぎて辟易していましたもんね。

林:そう。コロナで大変なドクターやコメディカル(医師以外の医療従事者)が何百万人といるなかで、かつ、医療の問題が社会の問題、経済の問題にまで拡がってるなかで、医療フィクションを公共の電波に乗せて流すのなら、いっそう腰を入れなきゃマズいでしょ。

アナ:そうですね。

林:ま、そのあたりは局側もよくわかってて、つい最近まで掃いて捨てるほどあった医療モノが4月期は「アンサング~」のたった1本だけ。「トップナイフ」と「病室で念仏~」はコロナ問題がまだ危機に化けつつある1月期の放送だったから、終盤の間の悪さはともかく、仕方がないっちゃ仕方がなくて、強く責めるつもりもないんだけれど、「医療を安易に飯のタネにするのはホント、もう止めましょうや」という意味を込めて、医療モノ3本をセットでワースト第3位に選びました。

アナ:やっぱり主人公が医師である「監察医 朝顔」の続篇(フジ系)や「恋は続くよ~」はワースト第3位から漏れていますが……

林:「朝顔」は医療モノと捜査モノのハイブリッドだし、「恋つづ」は恋愛モノの背景がたまたま医療の現場というレベルなので、外しました。医療の扱い方の安っぽさでは「恋つづ」はトップクラスだけれど、コロナ禍前の1月スタートだったしね。

アナ:なるほど。ただ、「もう止めましょうや」とおっしゃる医療ドラマが新年1月期には2本、放送予定となっています。テレ朝の「にじいろカルテ」(木曜9時)とテレ東の「神様のカルテ」(2時間枠で全4回)と。

林:そうそう。どっちもかなり、期待してます。

アナ:おっ。珍しいですね。また「カルテカルテと芸がない」とか「悪い予感しかしない」とか、そういう予想になるのかと思ってました。

林:いや、まだ見てもいないドラマの悪口を言うような元気が湧かないのよ、今は。ニッポンのTVドラマが瀕死の重病人みたいな状況だからね。

アナ:なるほど。では、期待というのはどのような……

林:脚本家の顔ぶれを見ると、制作側がそれこそ本腰を据える医療モノになるんじゃないかという期待です。「にじいろ~」の脚本はもはや大家の岡田惠和だし、「神様の~」の方の森下直も「フルスイング」(NHK)とか「夕凪の街 桜の国2018」(NHK)とかがよかった人なんでね。

アナ:それは本当に楽しみですね。……って、なんだかワーストの発表しているような気がしないんですが……、続いて連ドラ、ワースト第2位をお願いします!

林:2020年ワースト第2位は……

●4月期・テレ朝系・土曜23時台「M 愛すべき人がいて」
●10月期・テレ朝系・金曜23時台「24 JAPAN」

……です。

アナ:おっ。いずれもプライム帯より遅い深夜ドラマ、かつ、いずれもテレ朝系の作品ですね。この年間ベスト&ワースト3選定の対象は一応、「プライム帯の民放連ドラ」ではありますが、19年はこの縛りなしでの全ドラマのベスト&ワースト、両方の第1位がNHKの大河ドラマの「いだてん」だったという前例もありますし……

林:「M」やら「24」やらは、たとえ2020年のドラマがこの2本しかなかったとしても絶対ベストには入ってこないし、ワーストとしても「いだてん」とは酷さの質が違いすぎるよ。

アナ:この2作品をワースト第2位に選ばれた理由は?

林:いや、もう理由なんて語りたくないのよ。ちょっとでも見てしまいましたっていう不幸な人にはフラッシュバックを起こさせたくないし、どっちも全然見てませんっていう幸せな人にはあの酷さを伝えたくない。見てないけれどどうしても知りたいんですというモノ好きな人には「タイトルでググれ!」とだけ言いたい。

アナ:そんな。そこをなんとか……

林:じゃあ、理由を一言だけ言うなら、志の低さ。そこに尽きます。

アナ:ああ、確かに確かに。でも、もうちょっとだけ補足してくださいよ。

林:……まず、「M」を見て思い出したのは、「ゴシップは新しいポルノグラフィーだ」っていう何かの映画の名セリフ。歌姫とCD会社の社長との実話がベースだっていう原作本からドラマまで、田舎の通販会社が芸能ビジネスのあざとさを集めて煮詰めてカプセルに詰めて売り出したインチキ健康食品みたいな出来だった。

アナ:実際、ずいぶん批判もありました。

林:一方、「24」ニッポン版のほうは、最近当たったためしがない海外ドラマのリメイクで、元ネタは確かに超ヒット作だったけれど、スタートしたのはもう20年も前。わざわざジャパニーズ・バージョンを今つくる理由がひとつも思いつきません。安易を通り越して意味不明な企画。

アナ:主演の俳優さんたちには大物を揃えてきましたが……

林:なのに、つくりはチープで、今は亡き「新春かくし芸大会」の笑えないパロディドラマに見えて仕方がない。オリジナルのアメリカ版「24」は派手で豪華だったのに、ニッポン版のほうは地味で低予算。もうニッポンにはカネがないし、何より知恵がない──そういう重大な真実を広く国内外に知らしめるための国策宣伝ドラマにさえ見えてくる。

アナ:実際、コロナ不況の影響でスポンサー企業はこれまで以上に番組の費用対効果にシビアになっていて、TVの制作現場からは「おカネがない」という話ばかりを聞くのが現状ですよね。

林:頭が痛いことに、「M」にしても「24」にしても、貧して鈍している理由はコロナ由来の金欠だけじゃないんだよ。2020年は視聴率の分野で個人視聴率・コア視聴率への注目度が大きく上がった年。これまで長らく使われてきた世帯視聴率は「猫が見てても視聴率」どころか「爺ィが見てても視聴率」「婆ァが見てても視聴率」と馬鹿にされて、スポンサーも局もますます重視しなくなってる。

アナ:消費意欲が旺盛な若い世代にどれだけ見てもらえるかが重要になってきているわけですね。

林:そのとおり。で、「相棒」とか「科捜研の女」とか、世帯視聴率ばかりいいドラマの多いテレ朝は、個人視聴率・コア視聴率の取れるドラマへのシフトを目指していて、そのテストのために深夜ドラマ枠で「M」やら「24」やらを流してるんじゃないかなぁ。

アナ:なるほど。

林:テレ朝の深夜ドラマ枠は元々、プライム帯では数字が取れないような実験的な作品を流すテストマーケティングの場であって、そこから傑作も生まれてきたわけだけれど、古くは「トリック」、最近なら「おっさんずラブ」がやろうとしていた実験と「M」だの「24」だのでやろうとしている実験は、それこそ志が違いすぎる。

アナ:上を目指す実験と下を目指す実験……という差はあるように感じられますね。

林:そうそう。「M」は絵に描いたような下品だし、「24」は絵に描いたような下流で、目と耳のやり場に困るもの。

アナ:さて、ココは気を取り直して、2020年の連ドラ・ワースト1をお願いします!

林:気を取り直してやるならワースト1じゃなくてベスト1じゃないのという気もするけれど、それとは別の理由で、ワースト1の発表は後回し、最後の最後にさせて。その前に、2020年のベスト3の発表を。

【続く】

林操(はやし・みさお)
コラムニスト。1999~2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月26日掲載

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