総務省と通信事業者の癒着、族議員…誰が「スマホ料金」値下げを妨害しているのか【山田 明×原 英史】

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 菅政権の目玉政策、携帯料金値下げの論議が喧(かまびす)しい。しかし、元規制改革推進会議委員と、NTT出身ながら通信業界に疑問を呈し続ける評論家の二人は、未だ本質的な解決には至っていないと語る。消費者には知らされてこなかった値下げの最大の障壁とは何なのか。

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 山田さんの著書「スマホ料金はなぜ高いのか」は、菅義偉総理もお読みになっているそうですね。

山田 本が出て(7月17日刊)から1カ月くらいあとでしょうか、ある記者の方から、菅官房長官(当時)が私の書いた本を手にしておられる現場を目撃したと教えていただきました。私が総務省の研究所で仕事をしていたときに、菅さんは副大臣、大臣を務めておられたのですが、個人的な接点は一切ありませんでした。それで、私のほうから本の内容をまとめた資料をお送りしたんです。携帯料金の値下げがどうやったら実現できるのか、電波の配分の見直しが最終的には必要になってくるといった内容です。

 すると、送って数日後だったと思いますけど、自宅に菅さんから電話がかかってきまして、「本見ました。周りの者にも読ませています」と。そして「資料に書かれていることは近く実現しますよ」と力強いメッセージをいただきました。

 本の結論のひとつは、携帯料金の引き下げには有効利用されていない電波の帯域の開放が必要であり、その代表例がテレビに割り当てられた帯域だ、というものです。これは、世間ではほとんど認識されていない、根源的な大問題です。帯域が限られているため、寡占状態が生まれ、コストが上がり、携帯料金は高くなる。

 これまで私が関わってきた政府の規制改革の会議でも、電波の議論はいろいろしてきました。しかし、本質的な解決は進んでいません。なぜ放置されてきたかというと、世間で認識されていないから。つまり「電波」は、役所にとっても、通信・放送業界にとっても、世間の目に触れさせたくない聖域だったのです。

 しかし、10月27日に武田良太総務大臣が発表した携帯料金の引き下げに向けたアクション・プランには「周波数の有効利用の促進」と書いてあった。この項目をわざわざ入れたことにはびっくりしました。山田さんの本が効いているんじゃないかと思います。

山田 菅総理の持論で公約でもありますが、私も日本の携帯電話料金は高すぎで、もっと下げるべきだと思っています。本でも詳しく書きましたが、海外に比べて倍くらいは高い。本来ならば民間会社の競争によって料金は下がるべきものですが、シェア全体の9割を占める、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社が裏で手を組んだように、公正取引委員会から不公正な取引だと警告を受けるくらいひどい契約の仕方やさまざまな囲い込みをやっており、その犠牲になってきたのが日本の消費者。結果として、11月に発表された上半期決算では、大手3社の営業利益が合計でおよそ1・7兆円。総務省が認可する公共の電波を使ってやっているビジネスを、上場企業のトップ3が独占しているという、とんでもない事態になっているわけです。

 料金値下げは本来競争によってなされるべきだという考えは、私もまったく一緒です。日本は公取委が弱すぎる。明らかに寡占状態で不公正な取引がなされているのに、控えめな指摘ぐらいしかしません。1990年代くらいからずっと公取委を機能強化して競争政策をしっかりやらないといけないと言い続けているんですけど、全然変わりませんね。

報道をコントロール

山田 携帯電話料金について、まず最近の流れをざっと振り返りますと、9月中旬に菅さんが総理就任の際に、携帯電話の大手3社が全契約者のうち9割の寡占状態を維持していることに触れ、料金の値下げに向けて強い意欲を表明された。その数日後には武田・新総務大臣から「1割程度の値下げでは改革にならない」という発言もありました。

 こうした新政権の動きに沿うような形で、10月下旬に、ソフトバンクとKDDIが、データ通信量が20ギガバイト(GB)の大規模容量の携帯サービスを現在より4割程度割安な料金で提供するという新プランを発表しました。いずれも格安スマホブランドと呼ばれる、本体ではないサブブランドを通じて新たな割引サービスを提供するということで、メインブランドの携帯料金は据え置かれたわけです。

 値下げされた料金だけを見ると、菅総理が表明されていた4割値下げはクリアしているように見えます。ただ両社とも最も多くのユーザーがいる5GBや2GBを対象にしたものではない。しかもサブブランドで値下げするというプランでしたので、メインブランドのユーザーは値下げのメリットを実感できません。

 数字だけは4割値下げのようなプランですけど、実は「目くらましプラン」と言えるんじゃないかと思います。武田大臣は、このプランを「羊頭狗肉」と一刀両断されました。

 問題は、携帯料金が複雑でわかりづらいことだと思います。規制改革の基本思想は、料金やサービスは事業者が自由に設定し、あとは市場で競争したらよい、そうすれば消費者の選択で自ずと料金は下がるはず、ということでした。ところが、いま携帯市場では、この基本思想がうまく機能していません。料金はどうしたら下がると思いますか。

山田 大きく考えて、やり方は2通りあります。一つは、大手3社のうち、一つだけ位置づけが違う会社であるNTTドコモに焦点を当てるのです。ドコモは親会社がNTTという特殊会社で、国が役員の認可権を持っている。だから「政府の方針に従わなければ社長続投は認めない」と言うことができる。そのためNTTの澤田純社長は政府の意向を意識した新プランをドコモから出さざるを得ない状況だと思います。

 澤田社長は周到に準備を進めました。それがドコモの完全子会社化です。NTTによるドコモ株の公開買い付け(TOB)は、今年4月ごろから準備が進められたと報じられています。ドコモの株主に料金値下げ反対を叫ばれては値下げを実施できない。澤田社長にとって背に腹は代えられなかったわけです。

 そしてTOBが成立した後の12月3日にドコモは格安の新プランを発表しました。20GBで税抜・月2980円。10月下旬に発表された他の2社のものと比べて約1500円も安く、新プランへの移行手数料もタダです。これを受けて2社も12月9日には、最大1万5500円かかっていたサブブランドへの乗り換え手数料の撤廃を発表しました。ドコモは月内にも既存の大容量プランの値下げも発表する予定で、2社は今後もプランの修正を迫られそうです。

 そして、携帯電話料金を下げるもう一つの方法は、競合相手を増やすこと。現在、大手3社のほかに、楽天が業界に参入していますが、ドコモの新プランを受けた楽天の動きにも期待したいと思っています。

 ただ、さらに競争を推し進めるためには、今は大手3社が独占している、携帯電話にとって使い勝手のいい「プラチナバンド」(700~900MHz)と呼ばれる電波やこれに隣接する優良な電波の開放が必要です。その電波がどこにあるのかというと、放送局が囲い込んでいる。この周波数帯の使用状況を詳しく分析したアゴラ研究所の池田信夫所長によれば、放送局に割り当てられている帯域の中の8割近くは使われないまま放置されています。この浪費が疑われる電波の容量は、現在大手3社が使用している電波の総容量とほぼ同じです。

 つまり、この電波を楽天を含む新たな事業者に開放すれば、現在のカルテルまがいの状態から脱却し、競争による料金の値下げを可能にする環境が整います。

 私は2016年から19年まで規制改革推進会議の委員をやっていましたが、電波改革は最も力を入れた分野のひとつでした。放送用の帯域をもっと有効利用できないか、放送と通信の融合をさらに進められないか、あまり使われていない帯域を買い上げて有効利用する仕組みづくりができないかなど、さまざまな議論をしてきたのですが、そのたびに大変な反発を受けました。日本の場合はテレビと新聞が一体なので、テレビ・新聞で大批判キャンペーンを展開したり、逆に一切報じず議論を封じ込めたり、自在に報道をコントロールできてしまう。そうすると、私たちがいかに問題を指摘しても、世論のサポートは得られないわけです。

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