GoToや休業補償では飲食業や観光業を救えない(田中辰巳)

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 GoToの一時休止を残念がる声や、休業補償の増額を求める声がやまない。しかし、GoToや休業補償は一時的な救済措置でしかないのが現実だ。我が国は財政状態が厳しいため、当然ながら長期の継続は困難。コロナ禍が長引く中で、GoToや休業補償で永続的に飲食業や観光業を支えることは不可能なのである。

 国が一年間に使えるお金(一般会計歳出)の額など、たかだが100兆円強でしかない。そこからコロナ対策に回せる予算は微々たるもの。約500兆円ある我が国のGDP(国民が商品やサービスを購入する金額の総計)を支えるには、あまりに心許ない金額である。まさに、蛇に象を飲ませるような話なのだ。

 実は、かつて私も同じような失敗をした。父親の事業が窮地に陥ったとき、700万円を貸してしまったのだ。私の年収が1000万円ほどの頃だった。しかし、結局、会社は倒産し、貸したお金は返ってこなかった。

 その後、両親は生活に困窮したが、私に支援する余裕は残されていなかった。どうにか家族に支援できたのは、父親が死んだ後。退職金で母の面倒を見ることだけだった。痛感したのは「収入の少ない個人が事業の救済はできない。できるのは生活の応援だけ」ということだった。同様に、政府も総ての事業者を救済することなんてできないだろう。

 では、限られた予算で飲食業や観光業を救う(もちろん、飲食業や観光業だけを支えるのは間違っているが)には、どんな施策が必要なのか?

 いま巷で話題になっているのが焼肉店の繁盛だが、そこにヒントが隠されている。

 焼肉の煙を強烈に吸い上げるロースターが、人の発する飛沫をも吸い上げてくれる。だから、安心して店を訪れることができるというのだ。ならば、居酒屋にもロースターを設置すれば良いではないか。もちろん設置にはお金が必要だが、それは政府が補助や融資保障をすれば済む。客席をすべて個室にすることも有効だろう。新たに出店するならば、円グラフのような店舗も考えられる(厨房を店舗の真ん中に設置して、放射状に客席を設けて仕切りで分ける)。そうすれば、客は安心して大量に訪れるはずだ。

 いま、国民の外食への意欲は、かつてないほどに高まっている。もちろん、対応できない業者もあるだろう。そうした方々には、別の救済策も必要になる。かつての金融危機の時に、政府が銀行の合併を取り持ったような施策も、自治体と共に検討すべき段階に入りつつある。

 極論すれば、地球上の人口が激増したことによって「感染症パンデミック」の時代が訪れた。環境破壊と同時に、グローバル化によって人とモノの交流が進み、新たな感染源との遭遇が増えてきたからだ。ならば、感染症の流行に強い店舗や旅館に衣替えして、今後に備えなければならない。手をこまねいているうちに、次のパンデミックが発生したら同じことの繰り返しになってしまう。その備えのためにこそ、国民の血税を注いでいくべきではないだろうか?

コロナを別視点から見る

 菅総理が経済に固執するのには理由があるに違いない。事実、アベノミクスによって日銀は相当な無理を続けてきた。国債を大量に購入してゼロ金利(一時はマイナス金利)を続け、株式市場を支えるためにETFを買い増し続けてきた。

 したがって、ここで経済が悪化して株価が暴落したら、日銀のバランスシートは大幅に悪化してしまう。その結果、国の信用が失墜すれば、日本国債は暴落して更にバランスシートが悪化する。同時に、金利(住宅ローンと連動)が一気に上昇するわけである。それを懸念して、経済を何とか死守しようとしている――。そんな視点で菅総理を観察することも必要なのである。

 すっかり悪者扱いされてしまった菅総理の“はしご宴会”も然り。出席した政治評論家の森田実氏らの発言によって、マスクを外した会食だったことまで発覚してしまったが、ここでよく考えてみよう。安倍前総理と違って、菅総理は官僚の補佐官を重用していないという。だから、アベノマスクのようなヘマはしない代わりに、外部の有識者から情報を得て、政策の意思決定を自ら行っているのだろう。

 菅総理から宴会を取り上げてしまったら、意思決定が遅くなってしまう恐れすらある。ならば、宴会のはしごくらいは大目に見てあげるべきではないか。たとえ新型コロナに感染しても、トランプ大統領のように最先端の治療(モノクローナル抗体薬など)が受けられる。私たち庶民とはリスクの度合いが違う。そんな視点を持って観察すれば、菅総理の行動を忖度できるだろう。

 学術会議の一件を見ると菅総理ご自身の寛容性が高いとは思えないが、寛容性を持って見守ってあげないと大変なことになる。私たちの大切な年金も、大量に株式市場へ投入されているのだから。

 最後に、私たち日本人は米国のトランプ大統領と安倍前総理に感謝しなければならない、という視点。

 トランプ大統領の無防備なコロナ対策によって空前の感染爆発が起きたからこそ、米国で複数のコロナワクチンの緊急承認と予防接種が実施されることになった。その結果(副反応)を見てから、我々は接種の取捨選択をできるのである。まさに、アメリカ・ファーストの恩恵そのものと言えよう。就任直後のトランプ大統領を表敬訪問した安倍前総理の、新型コロナ対策における数少ないレガシーと言えるのではないだろうか。そんな忖度をしてみるのも、味わい深いものである。

田中辰巳(たなか・たつみ)
1953年愛知県生まれ。メーカー勤務を経てリクルートに入社。「リクルート事件」の渦中で業務部長等を歴任。97年に危機管理コンサルティング会社「リスク・ヘッジ」を設立。著書に『企業危機管理実戦論』などがある。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月21日掲載

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