加藤官房長官が“口利き”か 「利権の島」買収価格が跳ね上がった舞台裏

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加藤大臣宛ての「嘆願書」

 では防衛省側の土地評価額が引き上げられた18年10月から12月の間、リッチ社はどのようなことを行っていたのか。前述した手数料請求訴訟で、同社は次のように主張している。

〈勲に対して売買代金額の合理的減額を、防衛省側には被告関連会社等債務の完済の必要性を粘り強く説得し続けた結果、160億円で合意を見た〉

 しかし、である。

 掲載の面談記録の抜粋を今一度見ていただきたい。問題の時期、リッチ社の面談相手として防衛省が出てくるのは、10月19日の「防衛省(課長)」だけ。それ以外は加藤氏と和泉補佐官がほとんどなのである。つまり、リッチ社が〈粘り強く説得し続けた〉相手は加藤氏および和泉補佐官ということになる。そして、その二人が防衛省に何らかの働きかけをしたからこそ、土地の評価額が45億円から160億円に引き上げられたのではないか。

 ちなみに、裁判に証拠として提出されている面談記録には、19年1月に馬毛島の売買仮契約が交わされた後のものもある。しかし、そこに出てくる面談相手は勲氏の家族や内閣府や防衛省の担当職員ばかりで、加藤氏と和泉補佐官の名前は一度も出てこない。すなわちリッチ社が加藤氏や和泉補佐官と面談を重ねたのは、土地評価額が引き上げられた時期のみ、ということになるのである。こうした「状況証拠」からも、加藤氏が何らかの口利きをしたことが強く疑われるのだ。

 面談記録の抜粋を見ていただくと分かる通り、リッチ社が加藤氏側と接触したのは18年10月から12月の4度だけではない。16年6月2日、議員会館の加藤氏の事務所で秘書と面談しているのだが、その際、リッチ社が島の売買の「仲介者」になったことを証明する、専属専任媒介契約書を届けたと見られることは週刊新潮が報じた通り。

「この面談の翌月、勲さんは、当時は内閣府特命担当大臣だった加藤さん宛ての嘆願書を書いています」

 と、事情を知る関係者。

「勲さんはリッチ社の役員に『書かされた』と言っていました。当時、勲さんは沖縄を地盤とする下地幹郎代議士にも交渉の窓口を依頼していた。それをリッチ社及び加藤さんに一本化させるために嘆願書まで書かせたのでしょう」

 手元にその嘆願書のコピーがある。巻紙のようなものに達筆な文字で次のように書かれている。

〈拝啓 盛夏の候

 暑さ厳しき折柄/毎日の厳(ママ)務に御苦労様です

 選挙も大勝し休む間もなく経済復興と報じられております

 就きましては星霜十一年防衛省担当者に妨害を受けている老人です/この度お世話になっている◯◯社長(書面では実名)の計いで加藤大臣に経緯を作るよう云われ私感も入れて作ることと致しました/御笑読賜りますれば幸甚です

 防衛省では隣国の息が又配慮がなされ高官もリークを恐れて手が出せません/是非内閣官房で沖縄問題として鳩山内閣時のように取扱って頂くようお願い申し上げます

 向暑の折柄 呉々も御自愛をお祈り申し上げ

 取急ぎお願いまで

 平成二十八年七月十三日

立石 勲 

 加藤勝信大臣殿〉

“防衛省担当者に妨害を受けている老人”――嘆願書の中で勲氏は自らのことをそう表現している。これでは防衛省との交渉がうまく運ぶはずもないが、この嘆願書が出された約3年後、加藤氏の尽力もあったのか、ついに馬毛島の売買は160億円でまとまったわけである。

防衛省答弁のウラ

 加藤氏とリッチ社の関係を質す質問が衆議院の内閣委員会で出た日の午後、安全保障委員会では立憲民主党の重徳和彦議員及び屋良朝博議員から、防衛省に対して160億円の積算根拠を問う質問も飛び出した。

 防衛省の担当者は、

「具体的な積算根拠などにつきましては、取得に向けての調整や交渉がまだ行われているところでございまして、また相手方との関係もあることから、現時点で明らかにすることは考えておらない」

 と、木で鼻を括ったような答えに終始したのだが、興味深い答弁もなくはなかった。馬毛島の売買代金160億円の中には、勲氏が独自に整備した滑走路の建設コストも含まれるのか、と質問された際、

「民間の方が造られた滑走路等は、コンクリートやアスファルトによって舗装されておりません。単に整地がなされている状態ということでございますので、そのまま自衛隊施設の滑走路として使用できるようなものではございません」

 と答えた防衛省担当者。さらに、新たに国費をかけて滑走路を造るのか、と質問され、こう答弁したのだ。

「今の状態ではですね、そのまま滑走路としてできるものではございません。が、他方ですね、今の防衛省として考えておりますところの施設配置案におきまして、滑走路の配置は、ご指摘の民間の方が造られた滑走路と一部重なってございます。そこはきちっと整地がされているわけでございますので、そうした状況を生かして整備を行うことになるとございます(ママ)」

 永田町関係者が言う。

「担当者の答弁では、売買代金160億円の中に既存の滑走路整備費用などが上乗せされていないとは明言せず、含みを持たせている。今後、整備費用が含まれていることが明らかになった時に、虚偽答弁とならないよう備えたのでしょう」

 防衛省担当者は、“しかるべき時点”が来れば積算額の根拠を公表する、と明言した。その時期がいつなのかという点については言葉を濁したが、逃げることは許されない。言うまでもなく、使われたのは我々の血税なのだから――。

週刊新潮 2020年11月26日号掲載

特集「国会で追及『馬毛島』に税金120億円ムダ払い! 策謀で5億円丸儲け企業と『加藤長官』の怪しすぎる関係」より

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