メルカリに「創価」「幸福」の本尊が続々と出品の怪 なぜ売るのか? 誰が買っているのか?

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誰が買うのか

 では、誰がメルカリで本尊を買うのか。取材を進めていくなかで「宗教用具バイヤー」とでも呼ぶべき存在が見えてきた。彼らは非信者であることを公言しつつ、コレクターを自称し、値下げ交渉を行いながら積極的に宗教用具を購入し、同時に本尊などの出品も行っていた。ただ、このようなユーザーがすべての本尊を購入しているとは考えにくい。

 創価の現役信者は「除名された元信者が購入している可能性があるのでは」と語る。

「創価学会には除名という処分があります。処分となる基準は決まっていないものの、主に教団内の規律を乱すような行動をした際に、そのような処分が決まることが多いですね。除名されれば、会員としての地位をはく奪され、本尊も基本的には返還する必要があります」

 除名処分は創価学会内では最も重いもので、信仰心のある創価学会員にとっては、最も避けたいものだそうだ。最近では、昨年の参院選に「れいわ新選組」から立候補し、その後、離党した沖縄の創価学会員・野原善正氏も、除名処分になった(「琉球新報」報道より)。その他にも様々な理由で除名処分を受けた元会員は存在する。

 ポイントは、除名処分を受けたからといって、信仰心を失うわけではないという点だ。教団側から処分を下されただけで、むしろ信仰心が強いがゆえに教団と揉めて除名になったと主張している元信者もいる。だから、除名によって本尊を手放さざるを得なかった“熱心な元信者”は、メルカリで買ってでも本尊を必要としているわけだ。信仰心が変わっていないのであれば、今までと変わらず折伏をする可能性はあり、その際に相手が信仰を始める場合は、その分の本尊も必要になってくる。個人営業のローカル学会員のようなイメージだ。

 それに比べれば、幸福の科学の本尊の購入動機は分かりやすい。もともとの価格が高いゆえ、教団から直接的に本尊を拝受するよりも、メルカリで購入したほうが遥かに安く手に入れることができるからだ。すべての購入者が幸福の科学信者であるとは言えないが、教団に納める金額とメルカリとの出品価格の差を考えれば、購入する動機は十分に考えられる。

両教団ともに衰退の兆し

 メルカリで本尊が取引される理由は様々だが、そこには2つの教団の窮状が映し出されているといえる。実際、どちらの教団にも衰退の兆しが見えてきている。

 創価学会は少子高齢化による会員数の減少が指摘されており、2017年の衆院選と2019年の参院選においては、目標としていた公明党への投票700万票を割り込むなど、今までのような集票力を保てなくなってきた。

 幸福の科学においても、今年の東京都知事選挙において幸福実現党の七海ひろこ氏が立候補はしたものの途中で選挙戦から「撤退」したことや、次の衆院選の公認候補予定者44人全員の擁立を取り下げる発表をするなど、政治活動からの実質的な撤退を余儀なくされている。2015年4月に私塾として開設され、大学としての設置申請を行いながらも文部科学省から不認可という判断を下されていたハッピー・サイエンス・ユニバーシティも、今月7月に申請が取り下げられていたことが判明している。

 これらの状況を見る限り、両教団の勢いが低下していることは確かだ。

 本尊は2つの教団において信仰の対象として畏敬すべきものである。様々な事情があるだろうが、各教団の信者も本尊を手に入れたときは大切にしようとしたはずだ。しかしメルカリを見てみると、それらがひとつの「商品」として並んでおり、値下げ交渉が頻繁に行われている現実がある。それは例えれば、婚約指輪や親族の形見など、ひとりの人間の想いがこもった貴重品が、ただの「商品」として出品されることに近い。

〈入会したがほとんど使用することがなかった――〉。ここには、言葉にできない悲しみが込められているように思える。信者にとって最も大切にすべき本尊を売りに出すということ。それは過去の自分に区切りをつけ、新しい出発を切るための禊なのかもしれない。

片山一樹(かたやま・いつき)
1992年生まれ。出版社勤務を経てライターに。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月14日掲載

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