「豊饒の海」はすでに実効支配されている! 「尖閣」で中国と闘う漁師たちの証言

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“今日は帰ってくれ”

「自分たちが何のために釣りに行くのかわからなくなることがありますよ」

 と言うのは、与那国島で漁業を営む、真栄田一郎さん(=仮名)。

「尖閣に向かうでしょ。中国公船に絡まれる前に、海上自衛隊の飛行機は、中国船の動きを全部見ているんですよ。それで、海保に居場所を知らせる。すると、海保は漁師に“中国船が向かっているから、どこどこに移動してくれ”と言ってくるんです。つまり、自分たちがやりたい漁場で漁ができなくなる。釣れてる時に“移動してください”と言われたら、何なんだと思う。それに、自分たちが釣っているのは、主に海の底の方にいるアカマチ。回遊魚じゃないから、目的のポイントで腰を据えて操業するんです。なのに、“中国船が近づいているからあっちに逃げてくれ”“こっちに逃げてくれ”では釣れません」

 同じ与那国島の漁師・玉城正太郎さんも言う。

「以前、魚釣島の西まで行ったら、中国公船が追いかけてきて、海保に“避難してくれ”って言われたわけ。で、ぐるっと北側を回って島の反対側まで出たら、向こうの船はうちと島の間に入り込んで追いかけてきた。向こうの船は2千トンもあるのに入ってくるんだよね。で、また南に走ったら追尾してくる。そんなことを5マイルほどしていたら、海保の船が“すまないけど今日は帰ってくれ”と。それで帰ってきたことがあった」

 加えて、海保の巡視船はウォータージェットエンジンのものもある。これを近くでふかされると、魚が逃げてしまうとか。なるほど、これでは漁にならないわけである。

「尖閣に行く度に、追いかけられてますよ」

 とは、石垣島で漁業を営む、高江洲正一さん。

「はじめはドキドキしましたよ。向こうの船は海保の倍くらいの大きさがありますし、中国語で何か怒鳴っているし。今はもう慣れちゃってますが、気持ち悪いのは変わらない。武器を持ってるかもしれないし、向こうは船体が鉄ですけど、こちらはFRP(繊維強化プラスチック)。ぶつけられたら穴あきますよ。やつらが現れると、海保の船が“時計回りに逃げてください”などと指示を出す。でも、やつらは、こっちが漁をしている間はじっと見ているだけ。で、漁を終えて、さあ帰るぞ、というところで追いかけてくるんですよ、全速力で。で、その横に海保の船が中国公船からこっちをガードするような感じで付いて、同じ速度で走って帰ってきます。いつも2時間くらいは追われていますかね」

 高江洲さんの船に同乗したことがある、石垣市議会議員の仲間均氏が補足してくれた。

「なぜ帰りを狙うかというと、彼らは我々を追いかける時、動画を撮っている。で、国に戻って、“追い返してるよ”と、実効支配のアピールに使っているんですよ」

 中国公船に付きまとわれ、追われる日本漁船。そしてそれに必死で対応し、何とか不慮の事件、事故を起こさないようにしている海上保安庁の苦渋がよくわかる話である。

 玉城さんは、海保から尖閣に行くのは自粛してくれ、と言われたことがあるという。

「漁船が衝突して、日本政府が島を国有化した、その後くらいのことです。海保から電話がかかってきましてね。“来年から行けなくなりますよ”と。海保からすれば、中国の船が増えて、漁船に危害を加えてくる可能性もある以上、今はちょっと行くのを控えてくれということだったんだと思います。彼らもやることが山積していて余裕がないしね。あそこに行きたいけど、お上に逆らうわけにはいかないから……その時、俺は大きい船を買う予定だったんだけど、それで止めましたよ」

 以来、玉城さんは、尖閣に船を出していないという……。

タブーの海

 尖閣はタブーの海になっている。そう感じる。

 取材者にとっても辿り着くことが非常に難しい海だ。私自身、過去に取材を企画したが、壁にぶつかった。地元の漁師に乗せてくれるよう頼んでもまず断られる。釣り人などを乗せる「遊漁船業」登録をしていない漁船が、取材者を乗せて報酬をもらった場合、いわゆる「白タク行為」として、罰金を取られる例があるというのだ。テレビロケをはじめ、他の海域では事実上、黙認されている行為だから、島からメディアを遠ざけるためのひとつの口実として用いられているのだろう。ダイビング船などの一般船舶で行こうとしても、航行区域が厳しく設定されているため、これもまた難しい。

 12年、保守系団体が参加者を「漁師見習い」として漁船に乗せ、尖閣へ向かうツアーを企画。私もそれに参加してようやく現場海域に行くことができたが、今はそうした手法も、認められなくなっている。

 もちろん、海保としては、トラブルを起こさないことを至上命令としているのだろう。しかし、結果的に、それが漁船の自由な漁を妨げる→漁船が近づかなくなる→中国船の跳梁跋扈を許す、という悪循環を招いているのは悩ましいところである。とはいえ、もし海保が関与を弱め、事件事故が起きたら……考えれば考えるほど、答えが見つからない。その足下を見て領海を脅かす、中国への憤りが増す。

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